掃除はいつもあみがしてくれているから、俺の部屋は常に綺麗な状態で保たれているんだけど、年末大掃除くらいした方がいいのかと思い、禁断のクローゼットに手を伸ばした。このクローゼットはあみにも消して開けてはいけないと口が酸っぱくなるまで言っておいたので、多分酷いことになっているだろう。ここを開けるのは、本当に久々だ。久々すぎて開けるのが怖くなってきた・・・。よし、開ける。

雪崩のように台本が降ってきた。その振動と音を聞きつけたのか、バスルームを掃除していたあみが焦った顔をして俺のいる寝室までやってきた。ゴム手袋をしてマスクをしてしまいにだて眼鏡をしているあみの姿はとても面白い。台本に埋もれながらその姿を見る。驚いた顔も可愛いなぁ。

「そ、そこのクローゼットって、台本が入ってたんだ」
「うん」

のそのそとクローゼットから這い出て、降ってきた台本の山を見つめる。台本の奥には私服で着れないような衣装や身につけられそうにもないアクセサリー、その他、もろもろが詰め込まれているはずだ。物を捨てられない俺はこうして物を溜めこんでしまう習性がある。あみはそんな俺のことを分かっているのか、勝手に物を捨てたりしない。でもさすがにこれは、溜めこみすぎたかもしれない。どうしよう、捨てようかなぁ。

「どうするの、この台本の山は」

バラエティー番組に出た時の物、ラジオに出演した時の物、ドラマの物、映画の物、アニメの物、映画の吹き替え、舞台の台本、インタビューの台本、記者会見の台本。自分でも知らず知らずのうちにこんなに仕事をしていたようだ。このクローゼットだって、そんなに大きいものじゃないけど、衣装ケース四つは入るくらいの大きさはある。

「どうしようか・・・」

捨てるわけにもいかない。捨てるなんてそんなのもったいなさすぎる。どうしよう。

「多分さ、幽がなんの規則性もなしに詰め込むからこうなったんじゃないの?」
「それは一理あるね」
「じゃあ、規則性を作ればいいんだよ」

あみはどこからか衣装ケースを持って来て、奥にある着ない衣装を綺麗に畳んで丁寧に詰め出した。それを真似て自分もケースに服を詰め込んでいく。衣装が終わったらアクセサリー。アクセサリーが終わったら台本・・・台本を閉まっていくところで、手が止まった。自分が初めて主役を貰った時の、台本。手が止まった俺を咎めようとしたのか、あみは俺の顔を覗き込んで、そして、何も言わずに俺の手を握った。

「今夜、そのドラマ見ようか」
「・・・うん」

パラパラ、とめくるとその時の思い出が色鮮やかによみがえってくる。俺に人の感情を教えてくれる役には、いつも尊敬の念を抱いている。特に、初めてもらった主役には。
あみは静かに台本を衣装ケースに詰めて、あとは俺の持っている台本をしまうだけになった。それでもあみは何も言わなかった。「早く片付けよう」とも「まだしまわないの?」とも言わない。あみは静かに立ち上がって、寝室を後にした。しばらくするとシャワーが流れる音が聞こえて、バスルームの掃除を再開したことが分かる。台本の皺を伸ばして衣装ケースに詰め込む。雪崩が起きたクローゼットにそれらをしまいこんでいく。ありがとう、俺をここまで育ててくれて。心の中で呟いてクローゼットのドアを閉めた。

「あみ、何か手伝うことある?」
「ううん。あとはここだけだから、何もないよ」
「そう。じゃああのドラマのDVD探しておく」
「うん。頼んだ」
「今年もお世話になりました」
「こちらこそ」
「来年もよろしく」
「うん、もちろん!」

あみがあまりに眩しく笑うものだから、来年もいっしょにいられることができるようだから、とても心がほかほかしてきて、

マスクの上からキスをした。


「かかかかかかかすか!」
「なに?」
「早く口ゆすいで!」
「うん、わかった」

洗剤がもしついてたら危ないもんね。あみの唇はマスクの上からでも分かるくらい熱かった。




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