真っ暗な部屋で、クリスマスツリーのライトだけがチカチカと輝いている。エアコンの送風の音と、道路を走る車の騒音が今のBGMだ。決してジングルベールジングルベール鈴が鳴るーだとかは流れていない。一歩外へ出れば、イルミネーションの綺麗なところへ行けば、きっとクリスマスソングが流れているだろう。テーブルの上には冷めきったオードブルが、暖房のせいでぬるくなったシャンパンと一緒に並んでいる。わたしは何をすることもなく、ただソファにもたれかかって座ってクリスマスツリーを眺めていた。

幽が帰ってこない。

いつも一緒にいることを、約束しているわけじゃない。だからこんなの、普通なんだ。ただわたしは一人で張り切って御馳走を作って、幽の帰りをまっているだけ。幽は御馳走を作ってわたしが待っているなんてこと知らない。わたしもそんなこと一言も伝えてない。クリスマスだからと、何か特別なことをしようだなんて話をしたこともない。クリスマスなんて本当は普通の日なんだ。祝日でもなんでもない、ただの平日なんだ。何の意味もなかった平日も、現在では特別な日になりつつある。おかしな話だ。

カーテンから漏れているかもしれない、クリスマスツリーの黄色、赤、青の光。幽はこれを見て、何を思うのかな。



「ただいま」

わたしがいるだなんて幽は知らないはずなのに、どうして、幽は ただいま ってちゃんと言うのかなあ。

「おかえりー」
「うん。ただいま」

幽はスイッチを押さずにクリスマスツリーの光を頼りにわたしのところまでやってくる。おぼつかない足取りが危なっかしくて、思わず手を伸ばした。幽はその手をしっかりと掴むと、わたししか知らない顔をした。長いまつげが伏せられていくスピードと、幽の顔がわたしに近づくスピードはほぼ同じで、わたしもゆっくりと目を閉じた。クリスマスなんてなんの特別な意味もない、ただの平日だ。部屋にこもるしかないわたしと幽にとっては。街を並んで歩くカップルには、きっと大切なイベントの一つになるんだろう。綺麗なイルミネーションに囲まれて、誰にも気づかれないようにこっそりキスをしたりするんだろう。手をつないで、歩幅を合わせて、いつもよりも時間を確かめるように歩くんだろう。「メリークリスマス」と言葉を交わし、プレゼントを交換したりするんだ。

わたしが考えていることを見透かしているのか、幽はメリークリスマスなんて一言も言わずに「今日は御馳走なんだね」と笑った。


この空間でしか恋人でいられないわたしたちに、外の世界のことなんて、関係ないんだ。


「冷めちゃったよ、幽帰ってくるの遅いんだもん」
「ごめんごめん」

幽はスイッチを押して、部屋を明るくする。さっきまで主張が強かったクリスマスツリーも、ただのお飾りにしか過ぎなくなった。わたしはシャンパンをボトルごと氷水の中に入れて冷やしはじめた。


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