鍵を差し込み、回した。いつもの通りにドアを開けようとしたら、逆に鍵がかかってしまい、開かなかった。あれ?今日幽は遅くなるって言ってた気がするんだけど、もう帰ってきてるのかな。晩御飯の準備だってまだしてないのに。今日はハロウィンだからと、お菓子でも作ろうと思ってたんだけどなあ。困ったなあ。とりあえず、もう一回鍵を入れて、解錠させ、ドアを開ける。「ただいま」と言うと、奥からとんがり帽子をかぶった幽がやってきた。


「とりっく おあ とりーと」
「・・・ただいま」
「おかえり。お菓子くれないとイタズラしちゃうよ」
「お菓子の材料ならあるんだけど・・・」
「じゃあダメ。イタズラする」
「えぇー」


靴を脱いで上がると、とんがり帽子をかぶった幽は、わたしが持ってきたスーパーの袋を持ち上げ、逆の手でわたしの手をとった。なんか似合うなあ、とんがり帽子。可愛いし。幽はなんでも似合うからずるいよなあ。そういえばわたし、悪戯されちゃうらしいけど、大丈夫かな。何されるんだろう。リビングにつき、幽は袋の中身を冷蔵庫にしまったりしていた。たまにこちらを向いては嬉しそうに笑う。どうしたんだろう。すごく上機嫌みたいだ。わたしはコートを脱ぎ、ハンガーにかけた。いきなり寒くなって、急いでコートを出した。幽はとんがり帽子をかぶっているだけで、後は普段着だ。そのギャップになんだか小さな笑いがふつふつとわき上がってくる。


「お菓子、これから急いで作るね」
「いいよ、あみにイタズラするから」
「えぇ!?せっかく材料買ってきたのに!」
「明日もあるし」
「ハロウィンは今日だよー」


冷蔵庫に物をしまった幽はわたしに近づき、ぎゅう、と抱きしめた。「だって、あみ、お菓子持ってなかったじゃん」いや、確かにそうなんだけど、それは幽が早く帰っているとは思わなくて、ちゃんとお菓子作って待ってるつもりだったわけで・・・。まだ外は暗くもなっていない。そのうち日が暮れる。だけどまだそんな気配はない。今から作れば晩ご飯を食べる時間には作るつもりだったパンプキンパイも出来上がる。


「お菓子、いらないの?」
「いるけど」
「ぎゅーってされるのは嬉しいんだけど、これじゃあお菓子作れないよ」
「いいよ。というかさりげなく俺のお尻触らないで」
「んー」
「んーじゃなくて、触らないで撫でまわさないでくすぐったい」
「いい形してますねー」
「・・・へんたい」
「うん」


ぐい、と体を引き離すと、幽は名残惜しそうに目を細めた。
もし、幽が一般人だったら、こういう日にデートに出かけたり、お洒落なレストランでご飯食べたり、できるんだろう。でもわたしたちはそれができない。してみたいと思ったことは、ちょっと、ある。でもわたしはこれでいいから。これで満足だから。幽と一緒にいられるなら、贅沢なんていらないよ。


「やっぱダメ。今日は二人でカップラーメン」
「えぇ!?」
「ずっとくっついていたいんだ、だめ?」


幽は、ずるい。そうやって見つめられたら、断れないよ。わかってるんでしょ。幽は手を伸ばしてきて、またわたしを抱きしめた。頭と、背中にまわされた、幽の大きな手があたたかい。


「しょうがないなあ」


折れちゃうわたしは、相当幽に弱いんだよね。幽は満足そうに笑って、わたしに優しいキスをした。


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テーマ「人外ファンタジー」
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