俺の彼女は分類すると「ちょっとした変態」の枠に入ると思う。
人の服、下着はもちろん、私物なんでも持ち去る。俺のことを隠し撮りすることが大好きで、安物のインスタントカメラ、高画質のデジカメ、携帯でいつもシャッターチャンスを狙っている。風呂に入っている時だろうが、トイレに入っている時だろうが、着替えている時だろうが。

ここまで来ると「ちょっとした変態」よりも「ものすごく変態」に分類されてしまうかもしれない。変態だということに変わりはない、が、その変態発動は俺に向けてだけだから良しとする。




まさか、好きになるとは。



でもこの動悸の激しさと体温上昇、触れたくなる、寂しくなる、これって分類すると恋だと思う。








今日も一仕事終え、車に乗り込む。夜食のことを一瞬考えたが、食欲よりも眠気の方が勝っているのでこのまま直帰することに決めた。ブレーキを踏み、サイドを落とし、パーキングからドライブに入れ、アクセルを踏み込む。


「・・・そろそろ出てきたら?」
「エヘ、ばれた?」
「アクセル踏んだら、ちょっと重かったから。いつからそこにいたの?」
「んー、三時間くらい前かな?」


後部座席の足元のところに、彼女が隠れていた。彼女はたまにこうして俺の車に忍び込んでいる。いつの間に合鍵を作っているのかはわからない。合鍵をあげた覚えはないし、貸した記憶もない。まあ、車が壊れてなきゃいいんだけど。
彼女はひょい、と助手席に移動し、シートベルトを締めた。



「この時期、車内暑くなるんだから気をつけてよ」
「大丈夫、だって、夜だし」
「熱中症とか」
「幽がそこまで言うなら、気をつける」
「わかればいい」


彼女はいつのまにか俺の部屋の合鍵もつくっていたから、車で俺のことを待つ必要なんてないのに、こうして車に忍び込む。それが大抵、俺が仕事で息詰まったり、すごく疲れたりしている時だったりするから、こいつには何か特別なものがあるんじゃないか、なんて思ったりすることがある。


「あ、眠い?わたし運転変わろうか」
「やだ。あみの運転怖いし」
「ひどいなー、これでも事故ったことないんだよ?」
「運転しなくていいから、夜食作って」
「ここで!?」
「まさか。部屋で」
「どうせ冷蔵庫空っぽのくせに」
「この前持ってきてくれた大量のパスタが余ってる」
「じゃあ簡単で悪いけどペペロンチーノで」
「ん」
「シャッターチャーンス☆」


赤信号、停まる車。無理やりつながれた手。なぜかそれをインスタントにおさめる彼女。ふふふ、と笑い。俺に身を寄せ、携帯の内側カメラで今度は並んで写真を撮る。フラッシュがまぶしい。無理やり手をつながれたが、運転に支障はないといえば支障はない。オートマだし、常にギアに手を置いておく必要はない。が、ドキドキしてしまうわけで、


「手、離して。運転しにくい」
「いいじゃん、大丈夫だよ。幽、運転上手だから」
「事故りたくない、ぶつけたくない」
「はいはい、わかりましたー」


もうじき青信号。不本意ながら離れた手。膨れた頬。隙を見計らい、俺はその頬にキスをする。



「!!」


そして青信号、走り出す車。




「ほくそ笑むな、幽のキス魔」
「頬じゃ足りないから次赤信号になったら」
「それ以上言うと写真撮りまくるぞ」
「撮ればいいよ、キスしてるところでもどこでも」
「恥ずかしげもなくそういうこと言わないの!」




普段は無表情と言われる俺の感情をくみ取ることに長けている彼女の存在がありがたく、そして、とてもいとおしい。

照れ屋なのに変態、そのギャップに負けた俺も、もしかしたら、




「このあいだ俺のタオル勝手に持って帰ったでしょ」
「そうかもしれない!」
「返して」
「まあいいじゃん」
「・・・」
「ね?」






変態の仲間入り。かも

(いやむしろ、変態を好きになった時点で変態かもしれない)


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