彼女の外見は、至って普通だ。可もなく不可もなく。ただ、俺の目に映る彼女は特別可愛い。キラキラしている。これが良く聞くコイノヤマイというものなのだろうか。




「・・・あみ」
「あ、幽。おかえり」
「ただいま。・・なんでそこに?」

彼女が俺の家のドアの前にしゃがみこんでいた。さっきの夕立に打たれたのか、ずぶ濡れの格好で。いつもはきちんとセットしてある髪の毛も、お気に入りだと言っていたワンピースも、何もかもが濡れていた。それなのにキラキラに見えちゃうんだ。ずぶぬれなのに、ね。
彼女は俺の家の鍵を持っている。いつもならば勝手に入って勝手にシャワーを浴びているはずだ。だけど今日は違う。



「鍵、忘れちゃって」

へにゃり、と弱々しく彼女は笑った。
彼女の側まで行き、手を差し出して掴まるように促し、立ち上がらせる。何も言わずに鍵を開けた。パチ、と玄関の電気を点け、彼女の手を引っ張った。手はひどく冷たい。もしかしたら何時間も前からここにいたのかもしれない。そうならそうと、連絡をくれたらいいのに。
すぐに風呂のスイッチを押し、湯を沸かす。


「すぐお風呂出来るから、そうしたら入ってきなよ」
「・・・幽も、」
「俺も?」
「一緒に、入ろう?」


今日の彼女はなんだかおかしいみたいだ。





・・・

風呂の明かりは一切点けず、湯船につかる。残念なことに彼女の体を拝むことはできなかった。
期間限定らしい、ライチの入浴剤を彼女は入れた。白濁。ちょっと切ない気持ちになったけど、良い香りがするし、まあヨシとしよう。


それよりも今日の彼女はなんだかおかしい。確かに変態だけど、彼女から一緒にお風呂に入ろうだなんて誘われたことはない。なのに今日は誘ってきた。おかしい。いつもは独り言のようにペラペラと喋りだすはずが、それもない。おかしい、とか思いつつ、
後ろから彼女を抱き締めるような形で湯船につかって、(うなじが、・・・うん。)考えちゃう俺はそうとう彼女にやられてしまってるみたいだ。
確かにぜんぜん喋らない彼女はいつもと違うから変な気もするけど、別に喋らなくなって彼女といられることが幸せ。でももし何か理由があって喋らないのだとしたらその理由は知りたい。




「今日は朝から最悪だったんだ」

彼女がぽつん、とそう言ったものだから、俺はその小さな声に耳を傾けた。

「テレビの全チャンネルの占いが最下位だったし」
「うん」
「スーパーの特売、一時間間違えちゃって、結局何も買えなかったし」
「うん」
「傘忘れて雨に打たれちゃうし」
「うん」
「鍵まで忘れちゃったし」
「うん」
「だから今日はいいこと一つもなしなんだ」
「俺も今日はどっかの占いで最下位だったけど、悪いことばかりじゃなかったよ」
「え」
「だってほら、こうしてあみとお風呂入ってるし、」


イイコト、じゃないか。



「!!」
「それともあみは俺と風呂入ってるの、悪いことなの?」
「わ、わるくない、と おもう」
「占いなんてそんなもんだよ」


もしまた最下位になったら、今度は





bathroom talk

(キスでもする?)


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