確かにバスケしてる姿は格好良かったけど、第一印象はストーカーだから、マイナススタートなんだよね。わたしたちの関係は。わたしたちの関係っていうとちょっと変だけど。



ストーカーと夜中




暑さにやられて夜中目が覚めた。

赤司征十郎に最後に会ったのは、わたしが帝光中へ行って公開練習を見たのが最後。あれから二週間経つ。この間ニュースで帝光中学校が全中を制覇したことを知った。練習と大会で忙しかったんだろう。赤司征十郎がわたしの目の前に現れることはなかった。苛立ちに似た感情がわたしの心の隅で燻っている。不思議だ。あんなにストーカー行為っぽいことされて嫌だったのに。こんな風に考えてる自分が嫌だ。

財布だけを持ち、こっそりと家を抜け出した。夜中だけあって昼間ほど暑くはない。住宅街だから静かだし、夏の音に耳を傾けた。コンビニまで歩いて数分。小さい頃によく遊んだ公園を通り過ぎ、もう潰れちゃったけど、小さい頃あった駄菓子屋さんの十字路を曲がり、コンビニに着いた。三ツ矢サイダーを手に取りすばやくレジへ向かう。夜中だけあって店内は空いていて、すぐに買い物を済ますことができた。店員はわたしみたいな中学生が夜中にコンビニに来るなんて、と怪訝そうな顔をしたが、無視をした。来た道をたどり家路に着く。公園の前を通り過ぎたとき、人影を見つけてわたしの背筋は凍った。来る時は誰もいなかったはずなのに。物陰に隠れて、見つからないようにする。怖がる必要なんてないはずなのに、怖かった。そっと物陰からその人の様子をうかがっていると、その人が赤司征十郎だということに気がついた。いつもわたしの前にいる赤司征十郎じゃないみたいに、冷たく感じた。わたしの知ってる赤司征十郎は、ストーカーで、そしてストレートな人なのに。その要素を一つも感じられない。どうしようどうしよう、別に困ることないのに、公園の前を通り過ぎることができないでいた。すると「菜緒」気づかれてしまった。気づかれてしまったらもう姿を現すしかないじゃないか。


「ご、ご無沙汰しています」
「久しぶりだな」


わたしが公園へ入るとその冷たい雰囲気から一変した。


「あの、優勝おめでとうございます」
「知っていたのか。ありがとう」
「いや・・・」
「こんな時間にどうしたんだ」
「喉、乾いて」


「そうか」と赤司征十郎は一瞬悩んで、「送って行くから、すぐ帰ろう」と言った。


「一人で帰れるよ」
「危ないだろう」
「平気」
「俺が心配なんだ。送らせろ」
「・・・はい」


有無も言わせない風の赤司征十郎に、わたしは同意するしかなかった。わたしのこと好きなくせに、こいつは我儘だ。少し温くなりはじめたサイダーを口に含み、飲み込む。ピリピリとした炭酸が心地よかった。

公園を出て歩く。いつもよりも赤司征十郎の歩く速度が遅い。わたしの半歩前を歩いているのに、後ろに目でも付いているのか、わたしがちゃんと彼の後ろを歩いていることがわかっているようだ。


「そこ右」
「知ってる」
「え、なんで」
「昔この近くに住んでいたから」
「そうなんだ」


てっきりわたしのストーカーをしていたから、知っているのかと思ったけど、そうじゃないのかな。いや、この近所に住んでいたとしても、わたしの家がピンポイントでわかるっていうのは、ありえないか。やっぱりストーカー怖い。


「ここだろ」
「正解」
「・・・覚えて、ないんだな」
「?」
「おやすみ」
「おやすみ、なさい」


赤司征十郎は静かに去って行く。完全に温くなったサイダーを飲みほした。なんであの公園に赤司征十郎がいたんだろう。

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