分かってましたよ、平穏な日々なんて訪れないことくらい。



ストーカーが待ち伏せ




校門の人だかりを見て、肩を落とした。あの人だかりは、前も見たことある。有名人なんだね、赤司征十郎。クラスメイトやユミちゃんが教えてくれた。バスケの雑誌に載ったことがあるのだということを。帝光中のバスケ部は無敵を誇る。キセキの世代と呼ばれているらしい。まったくもって知らなかった。そしてうちの学校はミーハーな人が多いのか野次馬精神の持ち主が多いのか、人が集まっているところに、さらに人が集まる。きっとその輪の中心にいるのが赤司征十郎だということを知ってる人は、そんなにいないんじゃないのかな。すごい人がいるから見たい!って人が大半なんだと思う。

スルースルー。わたしは他人。


「菜緒」


ね、ね、赤司征十郎の目はどこについてるんですか。なんでそんなに人がいっぱいいるのに、わたしのことを見つけられるんですか。あの時と同じく、モーセの十戒のように人だかりがサッと二つに分かれた。その間を赤司征十郎が歩いてくる。わたしは無視をして歩いて行こうとしたが、それはできなかった。赤司征十郎の方を向き、へらっと下手な笑顔をつくると、赤司征十郎は満足げに頷いた。


「な、何の用ですか」
「今日は塾の日じゃないだろ」
「そうだけど」
「ちょっとついて来い」


そして強引にわたしの手を引いた。わたしは赤司征十郎が今日塾の日じゃないことを知っているのに、ドン引きした。


「どこいくの」
「今日は帝光中バスケ部の公開練習なんだ」
「プロか何かですか」
「そういうわけじゃないが、他校の偵察とか来たりするから、慣らしとかの練習のときだけ公開して、あとは非公開なんだ」
「へー」
「見に来てほしい」


立ち止まって、赤司征十郎がわたしのことを見据える。


「いや」


わたしがそう言うと赤司征十郎はハァとため息をついて、でも手はつないだままで、再び歩き出した。繋ぐ手の強さは、強くなく、いつでも振りほどけるくらいだ。優しい、のかもしれない。


「帝光中までの道のりは分からないだろ」
「うん」
「エスコートする」
「・・・うん」


わたしがその手を振りほどかないことに気が付いているのか、赤司征十郎はあの時と違い、ずんずんと歩かずにわたしの速度に合わせてくれる。何がしたいんだ、コイツ。

繋いだ手の温度はやっぱりどこか懐かしくて、揺れる赤い髪の毛を見つめていた。どこかで同じ光景を、見たことがあるような気がした。

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