わたしの4歳の頃の記憶を、親に確かめる勇気は、わたしは持っていない。



ストーカーと変質者




「ということで、次は物理の予定だったけど休校!今日はここまで。俺は次も授業あるから分かんないとこ教えられないので、みんな早めに帰るよーに!」


はい、お疲れーと塾の講師は締めくくった。古典は得意だから質問とかないし、どうするかな・・・。時計をチラリと見た。うーん、昨日赤司征十郎と約束しちゃったし、待っていようか。でもあと一時間くらいある。連絡先、知らないんだよね。連絡を取ろうと思ったことがないから、連絡先を知らなくていいと思っていた。しかし不測の事態に陥ってしまった今、連絡先を聞いておけばよかったと後悔している。


「ユミちゃんって赤司征十郎の連絡先知ってる?」
「知らない知らない!同じクラスになったことないし、多分赤司君わたしのこと知らないもん」
「そっかー」
「どうかしたの?」
「ううん、なんでも」


待ってみようかな、赤司征十郎を。
赤司征十郎はいつもわたしを待っていた。それは学校の前だったり、公園だったり、塾の前だったりした。場所は違えど、いつもわたしを待っていてくれた。だからたまああああああにはわたしも待ってみようかな、なんて。


(どういう風の吹きまわしだ)


ユミちゃんに手を振り、昨日の赤司征十郎と同じようにガードレールに腰掛ける。昨日、赤司征十郎はいつここに着いたのかな。わたしが赤司征十郎の目の前に現れるまで、どれくらいの時間がかかったのかな。赤司征十郎は何を想って待っていてくれたのかな。夜になったとはいえ、まだ街は暑く、汗がじんわりと出てきた。うーん。このままだと水分不足で倒れかねん。わたしは腰を上げ、近くのコンビニを目指した。すぐ、戻ってくる、ガードレールにそう告げて。大丈夫、まだ昨日の時間までは時間はあるんだから。


歩き出すと温い風がわたしを通り過ぎて少し気持ちが悪かった。近道しようと思い、狭くて薄暗い路地に足を踏み入れた時、わたしの死角からにゅっと手が伸びてきた。


!!??


何が起きたか分からない。
わたしの口は、今強い力で抑え込まれていて、フーッフーッと誰かの荒い息が耳にかかっている。体も抑え込まれていて、身動きが取れない。気持ち悪い、気持ち悪い。体が強張って言うことを聞かない。逃げろ逃げろ逃げろ。どうにかして、逃げろ。

頭が割れそうに、痛い。



ぽっかり空いた穴にわたしが飛び込んだら、その先に何が見えるのだろう。



「あか、し」



動け動け動けと言うことの聞かない体に命令をして、必至でもがく。頭をふりみだしたとき、やっと口を開くことができた。あかし、あかし、あかし、あかし、せいじゅうろう、せいじゅうろう、せいちゃん。


「菜緒!!!」


ああ、そうだ、4歳の頃のわたしは



目の端に赤司征十郎が写りこんだ瞬間、わたしは意識を手放した。

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