夏休みが終わるまで、赤司征十郎に会うことはなかった。
わたしは家にあるアルバムを全部見返してみたけど、4歳くらいの頃の写真は一枚も出てこなかった。

短い夏が終わって、二学期が始まった。



ストーカーと帰り道




ゾクリ
最近後をつけられている気がしてならない。相手は赤司征十郎ではないと思う。赤司征十郎はわたしに正体がばれてしまってからと言うもの、隠れることはなかったから。今回の相手は本当にわたしに気づかれないようにしているようで、気配は感じるのに姿が見えない。自分の勘違いであって欲しいと願った。鞄の取っ手の部分をきゅっと握りしめ、塾へと急いだ。


「菜緒ちゃん久しぶりー」
「ユミちゃん久しぶりー」
「なんか顔色悪いけど、大丈夫?」
「あ、夏バテかな?」
「もう九月ですけどー」
「ほら、残暑厳しいし」


教室に入り、開口一番顔色が悪いと言われる。変な気配を感じてから、確かにちょっと気分が悪い。大丈夫大丈夫と言いながら席に着いた。大丈夫。気のせい気のせい。勘違い勘違い。今は勉強に集中しなくちゃ。わたしは受験生で、これから一分一秒も無駄になんてできないんだから。いい高校へ行って、いい大学へ行って、いい企業に就職して、それで?それで、わたしはどうなるんだろう。


ずきずきずきズキズキ
あたまがいたい


講義中、こっそり窓の外を見る。街路樹の陰に隠れる、見知らぬ男と目が合った。急いで視線をそらす。冷や汗が一気にどばっと出て、わたしの動悸は激しくなった。やばいやばいやばい、あいつはなんかやばい。知らない人だけど、なんかやばい。わたしの本能がそう警告していた。もう講義には集中できなくて、ホワイトボードに書かれていく文字を頭に入れないままノートに書き写すことしかできなかった。もう一度チラリと窓の外を見たときに見知らぬ男はもう消えていた。どこかへ隠れているのかもしれない。不安で胸が痛くなる。


(あかし せいじゅろう)


あいつなら、わたしを守ってくれるのだろうか。




塾の外に出て、わたしは驚くこととなる。「菜緒、お疲れ」赤司征十郎がガードレールに腰をかけてわたしを待っていたから。ユミちゃんは「やっぱり付き合ってたんだね!」と嬉しそうに言い、ウインクをしてすばやく帰って行った。えぇー。やっぱり付き合ってたんだねってことは、帝光中学校ではわたしと赤司征十郎が付き合っているってことになってるのかなー。がっくりと肩を落とし、赤司征十郎のそばへ行った。あの日以来会っていないから、どんな顔をすればいいか分からない上に、なにを喋ったらいいかもわからない。赤司征十郎の思い出を知らないときのように振る舞えばいいのだろうか。


「久しぶり」
「あの日以来だね」
「送って行くよ」
「一人で平気」
「だったら俺を無視して歩き出してるはずだよね?」


うっ、たしかに・・・


「ありがと」
「どういたしまして」


正直、一人で帰るのは怖かった。気のせいかもしれないけど、勘違いかもしれないけど、変な人がわたしの後ろを歩いていたような気がしたから、心細かった。でも今は赤司征十郎がいる。なんだかんだいって、こうやって赤司征十郎と一緒に居るのは、どうやら嫌いじゃないようだ。制服のままだから、もしかしたら学校帰りなのかな。でも夏で部活は引退しただろうし、何してたんだろ。あーOBとして部活に顔出してたのかな。わたしの顔に出ていたのだろうか、赤司征十郎は「部活に顔を出していたんだ」と言った。


「そっか」
「ずっとバスケ漬けだったからね。急にあの体育館へ行ってバスケをしなくなるのが、慣れなくて、たまに行くんだ」
「もうバスケはしないの?」
「いや、続けるよ」
「そうだよね。全中三連覇した部長だもんね」
「ただ単にバスケが好きだからだよ」


なんだ、普通に喋られるんじゃん、わたしたち。何をそんなに気まずくなるとか思っていたんだろう。完璧にわたしの家までの道順を覚えている赤司征十郎の横で、他愛のない話を続ける。赤司征十郎とこんなに喋ったのは、初めてかもしれない。家へ着いてしまうのが、惜しくなるほど。


「明日も塾?」
「あーうん」
「終わる時間は?」
「今日と一緒」
「じゃあ迎えに行くよ」
「え、いいよ」
「俺が送りたいんだ」


そう言われたらもう、頷くしかないじゃないですか。赤司征十郎はずるい。

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