混乱するわたしをよそ目に、赤司は冷静に喋り出した。



ストーカーの思い出話




覚えていないだろうけど、

そんな出だしだった。

俺は菜緒の幼馴染だった。引越しをしたのは4歳くらいのころだったから、忘れてしまっていても無理はない。俺は幼少の頃泣き虫で、よく公園で年上の子供にいじめられては菜緒に守ってもらっていた。泣きじゃくる俺を背にして、年上に食ってかかって行ってた。そんな菜緒が格好良くて、好きになった。でも守ってもらってばかりじゃ格好悪いから、このままじゃダメだ。泣き虫な俺を菜緒は絶対好きになってはくれない。引越ししてから特訓した。いつ菜緒に再会しても大丈夫なように。格好悪い俺を二度と見せないように。格好良く見られるように、努力した。菜緒がどこの小学校へ行って、どこの中学校へ行ったのかは知っていた。もともと住んでいたから。知っていたからこそ避けていた。あの頃と比べたら背も伸びたし、バスケで全中制覇した。成長しているけど、まだ俺は子供だから、会いに行けなかった。でもある日、菜緒が塾へ向かうところを、偶然見かけてしまったんだ。すぐにわかった、菜緒だって。すれ違ったんだぞ、覚えているか?菜緒は俺のことに全く気づかずそのまま塾へ行ってしまったから、俺のこと忘れてしまったんだな、って思ったよ。ショックだった。俺は1ミリだって忘れていなかったから。だからいてもたってもいられなくなって、追いかけた。・・・怖い思いをさせて悪かった。


(ねぇ、わたし知らないよ、そんなこと、知らない。覚えてないよ。)


会ってしまったらもう後には戻れなくて、毎日会いたくなった。我儘だって、分かってたけど、もう10年も会ってなかったんだぞ、会いたくなるよ。



「ここまで言っても、思い出せないんだな」


赤司征十郎は長い溜息をついて、そのあとに笑った。


「ちゃんと言ってなかったな」

「好きだよ、菜緒のことが」


赤司征十郎の中には、わたしがたくさんいるのに、わたしの中に赤司征十郎は全くと言っていいほど、いなくて、頭が痛くなった。足りない、記憶が足りない。わたしの4歳くらいの頃の記憶は、すっぽりと抜け落ちて穴が開いていた。どうして記憶にあながあるんだろう。この穴がふさがったら、わたしはどうなってしまうのだろう。

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