夜中に家を出るのは、実は好きだったりします。こっそり家を出る時もあれば、親とけんかして飛び出しちゃうパターンもあるわけで。この間は前者で、今日は後者だ



ストーカーと家出




この間同様いつものルートでコンビニまで行き、三ツ矢サイダーを手に取る。走ってきたから心臓がドキドキとうるさく、額には汗がにじんでいる。走れば頭が真っ白になるかななんて思ったけれど、そんなことはなかった。「袋いらないです」と言ってちょうどのお金を渡し、コンビニを出た。行くあてなんてもちろんなくて、携帯も家においてきちゃったし、どうしようかなーなんて考えていたら「そういえば、あの日から赤司征十郎に会ってないな」と思い出した。全中が始まる前はあんなにわたしの前に現れていたのに、全中後はさっぱりだった。あいつこのことを思い出すのがなんだか悔しくて、三ツ矢サイダーをぐいっと飲んだ。途端むせる。すがりつく相手もいない、助けを呼べる人もいない、行き場もない、どうしようもなくなって、家を飛び出してきたけど、やっぱり家に帰るしかないのかな、とトボトボ歩き出した。ふと横を見れば、赤司征十郎が立っていた公園があった。

小さい頃よくここで遊んだなーなんて思って、公園に足を踏み入れた。砂場で山作って、トンネル作ろうとして潰れちゃったとか、ブランコで着地失敗して擦り傷作ったとか、ジャングルジムで足踏み外して危うく落ちちゃうところだったこととか、滑り台を登ったりとか。ちくっと頭が痛む。ここで遊んでいた、はず。なのに一緒に遊んでいた子のことが思い出せない。変だな。誰かと一緒に遊んでいたはずなのに。ブランコに腰を下ろして揺れる。三ツ矢サイダーをまた口に含んだ。


「菜緒」


最近見かけないな、なんて思ったその日に、どうしてあいつは現れるんだろう。


「赤司征十郎」
「こんな時間にどうしたんだ、危ないだろう」
「平気。赤司征十郎に心配されることはない」


公園の入り口で、赤司征十郎は立っていた。その姿は、この公園が目的でやってきましたという風で、じゃり、と公園に入ってくる。わたしの目の前に立つと「心配するよ。菜緒は女だろ」と言った。女、ですけど。赤司征十郎だって中学生じゃないですか。


「送るよ、帰ろう」
「・・・嫌だ」


帰りたくない。
あの家に帰って、勉強、勉強言われるのはもうたくさん。名門校行けって言われるの、もう嫌。勉強は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、押しつけられるのは、嫌。嫌。嫌。嫌。わたしの勉強したいことを、勉強したい。得意不得意あるし、オールマイティにできるのがベストだってわかってる、けど、名門校に行きたいわけじゃない。勉強に追われて日々を過ごしていくなんて、嫌だよ。もっと友達と遊びたいし、部活動だってしたかった。高校に行けばアルバイトだってしたい。でも今のままじゃ、きっとそれは叶わない。


赤司征十郎は「そんな顔しないでくれ」と言った。続けて「菜緒のその顔は見たくないよ」と言った。ふう、と長い溜息をついて、「俺の家、来る?」と言った。わたしは「うん」と短く答えた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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