卒業式が終わって、でもまだわたしたちは二年生なわけで、終業式までまだ日があるわけでありまして。

そんなこんなでやってきましたホワイトデー。まったく期待はしておりません。


期待は、してなかった。


「小松」
「なに?」
「放課後、待ってろ」
「…ずいぶんと偉そうですね緑間さん」


そんな風に言われちゃったら期待をせざるを得ないわけです。




★★★





緑間の部活が終わるまで、一か月前のことを思い出していた。わたしは緑間に好きだって言ったけど、緑間はふんともすんとも言わずにわたしの背中に手をまわしていただけだった。それが親愛なのか、愛情なのか、まったく読めない。後者であってほしいの祈った。

アヤちゃんと高尾は問題なくお付き合いをしている。空気を読まない緑間がチャリアカーなんかで高尾をパシっていたが、そこはアヤちゃんとわたしできっちりシメた。恋人の時間も大事ですからね。登下校に高尾と居られなくなった緑間はわたしと一緒に帰ることが増えたのは言うまでもない。わたしが「好きだバカ」なんて告白をしてしまったものだから、しかも明確な返事をもらえないものだから、ギクシャクしちゃうのかなと心配していたが、まったくそんなことはなかった。良かった良かった。


「待たせたな」
「あ、緑間。おつかれー」
「…これ、つまらないものですが」


あの日のわたしと同じように緑間はぐいっとわたしの前に紙袋を渡してくる。それを受け取ると緑間は安心したように笑う。ねぇ、だからさ、わたしのこと好きなの嫌いなのどっちなの。そういう風に笑いかけられたって、緑間の気持ちが見えなかったら、胸のあたりが切なくなっちゃうよ。


「ありがと」
「なんてことはないのだよ」
「まさか緑間がホワイトデーを覚えてるとは思わなかったよ」
「失礼な奴だな」
「ごめんごめん」
「…帰るか」
「うん」


とぼとぼと歩く。緑間はわたしよりもずっと背が高いから、歩幅だって大きいはずなのに、わたしの歩く速度に合わせてくれている。言動は優しくないのに、やってくれることは優しい。


「ずるい」


わたしだけがすきで、
そんなわたしに優しくするなんて


「緑間はずるいよ」わたしがそう言って立ち止まると、緑間もつられて立ち止まった。意味不明なこと言ってるなぁわたし。でもそう思ったんだもん。緑間の気持ちが分からないから、優しくされたらどうしたらいいか分からなくなっちゃうんだ。喜んでいいのか、喜んじゃいけないのか、わからないんだよ。


「好きだバカ!」


それでも好きなんだ緑間のバカ。
こぼれそうな涙を抑えるために、目を瞑った。





「馬鹿はどっちだ」


緑間の声が聞こえると同時に、緑間に包まれる。


「気づけ、馬鹿が」


背の大きい緑間に、すっぽりつつまれるわたし。

ああ、かわいいおんなのこみたいだ。




「最初に好きになったのは、俺の方なのだよ」

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -