×美人クラス委員長
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【夢みて恋して】

教室に佐倉がいる。

黒板の前に立って綺麗な瞳から涙を流している。

どうした?と言っても涙は止まらない。

何も言わずただ、ただ涙を流し続ける。



アラームの音に布団から手を伸ばす。
半分寝たまま起きて顔を洗って着替えて。
目玉焼きだけ食べて小言を言う母親をシカトして外に出た。

携帯を忘れたのに気づいたのは校舎を目の前にして。自転車をフル回転して来たから取りに帰るのは無理だ。あと5分でチャイムが鳴る。
教室に行くと相変わらず騒がしい。
「おーす。ギリだな」
「おす。アラームの設定ミスった」
何度目かの欠伸をして黒板の方に目をやると佐倉が友達と笑いあっていた。
委員長をしてる佐倉の友達は真面目でどこか品がある。類は友を呼ぶってやつか。
チャイムが鳴って1時間目が始まると佐倉は黒板の前に立った。
「今日は自習です。プリントを配ります」
きっちりネクタイ結んで苦しくないのかな。と言っても着崩してる佐倉は想像出来ないけど。
「うわ。問題多い」
「対策じゃね。騒がれないように」
どうしたってうるさくなるけどな。
佐倉を見るといつもと変わらず背筋を伸ばして座ってシャーペンを動かしてる。ほんと真面目だ。
「なぁ、なぁ、知ってる?あの王子先輩、我らの佐倉委員長に告ったらしいぞ」
「はあぁぁぁあああ!?」
なんかドカンときて思いっきり立ってしまった。
「す、すまん」
全員の視線を受けて慌てて座る。
「どうした、どうした」
「いや……で?どうなったんだ」
王子先輩って苗字が王子で王子様みたいな人で。そんな王子様、王子先輩が……。
「それがなんと断ったらしい」
「あ……そっか」
なんだ断ったんだ。いや、なんでホッとしてんだ。俺には全然関係ない。それゃなぜか気になる存在だけど。
関係ない。関係ない。

学校が終われば真っ直ぐ家に帰る。
別にいい子ちゃんじゃない。家でだらだらするのが一番。
今読んでる漫画はもう最終回に近づいてる。あと数巻で終わるかな。
ページを捲って。熱いバトルの最中。
気付けば場面は教室に変わってた。

黒板の前に佐倉がいる。
背筋を伸ばして立って。
泣いてる。

なぁ。佐倉。どうした?
聞こえてるのか聞こえてないのか。
涙は止まる気配がない。
なんで泣くんだ。なにかあったのか?あの王子先輩につきまとわれてるとか?
なぁ、さく。
「っ、ぃっ!」
ガン!て響いて目が開いた。
体はベッドで頭は床。いつのまに寝たんだ俺。
「はぁ〜……」
一緒に落ちたマンガを取ってまたベッドに戻る。
いつからか分かんねぇけど佐倉の夢を見るようにった。
佐倉はいつも教室にいて黒板を背に泣いてる。
ただの夢だし別に気にすることないけど……。
「あ゛ああー!コンビニいこ!」
気分転換しよう、気分転換。
外に出て真っ直ぐ進む。
クリーム色の家を曲がって進むと小さい橋になる。
橋に足を置いたところで左側に人影あるのに気づいた。
近づくと手を手すりに置いて顔は街灯の灯りできらきら光る水に向けられていた。
「佐倉……」
きらきら光る川より綺麗だ……って!なに言ってんだオレ。
それよりもだ。俺はまた寝たのか?いや、ちゃんと起きてる。風も感じるしちゃんと歩いて来た。でも、じゃあなんで佐倉がいるんだ?橋の上から川なんて見てなにが楽し……。

まさか……。

「佐倉っ!さくらっ!」
「えっ!?わっ!?」
肩をおもいっきりつかんで手すりから離れさせた。
「おっまえっ!なに考えてんだっ!」
「えっ、み、みなせくん?」
「どんな悩みか分かんねぇけどっ。家族とかっ、友達とかっ……考えろよ……」
俺がここに来なかったらどうなってたか。ぞっとする。
「えー、っと……あの、よく分からないんだけど」
「よく分からないって……飛び降りようとしてただろ」
「飛び!?そんな、怖いこと」
「え、違うの?」
「考えもしないよ」
なんだ。良かった。
「ごめん、勘違いした。肩、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ありがとう、水無瀬くん」
「なんでお礼?」
「勘違いとはいえ僕を助けてくれたから」
「そんなの当たり前だろ。クラスメイトだし」
クラスメイト、でいいよな?友達というほど仲良くないし。みんな仲良しお友達は小学校までだろ。
「水無瀬くんの行動力は凄いね」
佐倉はまた手すりに手を置いて目にきらきら光る水を映した。
「なぁ、佐倉」
「なぁに?」
「なんか、悩みあるか?」
「え?」
ここの川は、昼間は自然にきらきら光る。
「信じられないかもしれないけどさ。毎日、夢に佐倉が出るんだ」
「ゆめ?」
「うん。教室にいて、黒板の前に立ってて」
川から不思議そうにこっちを見た佐倉の目を真っ直ぐ見る。
「泣いてる。佐倉は泣いてるんだ」
ただの夢だ。現実の佐倉はいつも友達と笑い合って。楽しそうに学校へ来てる。
「ごめん。ただの夢だから。変なこと聞いてごめん」
「ううん。やっぱり泣いてたか」
「やっぱり?」
「うん。起きるとね、目が痛いんだ。瞼が重くて、頬に濡れた跡がある」
眠りながら泣いてたんだね。とまた川を見つめた。
「ここ最近、上手くいかないんだ。友達の成績は上がるのに僕は上がらなくなった。毎日、毎日、勉強した。テレビもネットも見ずにひたすら勉強してたんだ。でも、成績は上がらない。友達はテレビもネットも見てるのに上がるんだ」
端整な横顔が悲しそうに歪む。
「悔しくて、悔しくて。寝坊することも多くなって、シャーペンの芯が頻繁に折れたり消しゴムで消してたらノートが破れたり。小さなことにイライラして……両親とケンカしちゃったんだ」
100点。取ってたな。全教科100点で先生のテンションやばかった。そっか。一回100点取れば他の点はいらないよな。
「俺なんていつもケンカしてるよ。というより母親が小言言ってる。上手くいかないことなんて日常茶飯事だ。忘れ物もするし寝坊もしょっちゅうする。テストなんて1点上がっただけで先生に握手されたよ」
100点なんて取ったら失神するんじゃないか。
「不安にならない?僕は上手くいかないことが凄く不安」
「落ち込むことはあるけど。ずっと落ち込んでても不安になっててもどうしようもないだろ。時間は進むんだし」
「時間は進む……」
楽しい時ほど早い。早く終わりたい時ほど遅い。
この時間もすぐ終るんだろうなぁって佐倉を見たらなんか考え込んでるみたいな表情。
「勉強辞めたら?」
佐倉は頭の使いすぎなんだと思う。
「辞める?」
「毎日、勉強して疲れるだろ。脳が休めって言ってんだよ。もう入んないよって」
俺は毎日勉強したりしないから偉そうにアドバイスできないけど。
「休憩してまた勉強すれば?」
「休憩……休憩ってどうすればいいの?」
「は?」
「ずっと勉強してるから休憩の仕方が分からない」
分からないって。
「テレビは見ないのか?」
「ニュースとか政治関係なら見てるよ」
「……じゃあ、ゲームは?漫画は?友達と遊びに行ったり」
「ゲームは興味ないかな。漫画も。遊びに行くような友達はいないよ。図書館で勉強したりはするけど」
俺なら毎日が拷問だわ。よく生きてたな佐倉。
「勉強以外にしたいことは?」
「ん〜……」
「いつも何考えてんの?」
「ん〜……各教科の復習したり単語を思い出したり」
本当に高校生?脳の半分は遊びでもう半分はエロが高校生の脳だろ。
「水無瀬くんは普段なにしてるの?」
「おれはー…漫画読んだりゲームしたり。寝たり」
「そうなんだ」
絶対興味ないだろ。やっぱ優等生は優等生と話が合うんだな。あれ、なんかモヤモヤする。
「読んでみようかな、漫画。なにかお勧めはある?」
「え、オ、オススメ?」
「うん。水無瀬くんが読んでるなら読んでみようかなって」
俺が読んでるから。読んでみたい。
うわ。なんかやばい。すっげぇ嬉しい。
「ゲームもしてみたいし遊びにも行ってみたい。水無瀬くんと」
「……」
「水無瀬くん?」
「あ、いや、うん……」
すっげぇ心臓バクバク鳴ってる。なんだこれ。
「じゃ、じゃあ、オススメの漫画貸すよ。完結してるし一気に読める」
あれ、社交辞令とかじゃないよな?大丈夫だよな?
「ありがとう。楽しみ」
「っ、うん」
可愛い笑顔だし本当かな。

もっと、もっと。楽しんでほしい。
俺が楽しませたい。
俺が笑顔にしたい。
「あ!そうだ。佐倉、王子先輩とは大丈夫か?」
「え、王子先輩?」
「うん。王子先輩に告られたって。断ったって聞いたけど、言い寄られたりされてないか?」
「大丈夫だよ。ありがとうってお礼言われて逆に僕が困っちゃったよ」
好感度上がったな。さすが王子先輩。でも俺も負けてられない。佐倉の好感度上げて友達になってやる。
「断って良かったなって思うよ。じゃなかったら水無瀬くんと遊べないし」
「……」
俺の心臓、バクバク鳴りすぎて痛い。
「これから、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……」

絶対、佐倉を幸せにする!





教室に佐倉がいる。

黒板の前に立って笑ってる。

佐倉。いっぱい遊ぼうな。へとへとになるくらい連れ回すから。覚悟しといてな。


聞こえてるのか聞こえてないのか分からないけど。

嬉しそうに笑った気がした。




END



 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

170226



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -