かはづ東宮
 

術師は言った。


「元の姿に戻るにはその姿ごとあなた様を好いて下さる姫君を探さねばなりません」


初めは何を言われているのか分からなかった。
意識がはっきりしてきたと思えば何か硬いもので殴られたような頭痛が思考を奪い、状況を把握することが出来ない。
しいて言うなれば、目に映るもの全てが自分より大きく圧迫感があるということだろうか。

第一に話しかけてくる声の主が術者ということは分かるのだが、声ばかりが反響し姿が見えない。


その術者があまりにも、巨大すぎるからだった。


「もっとも、その醜い姿を受け入れる姫君など居るはずがありませんがね……」


そう言って、声の主が個々から立ち去ろうと踵を返す。
纏う衣が強風となり自分の身が倒れそうになるのを堪え切れず、じっとりと湿る土に手をついた。

遠ざかる足音よりも自分の手の形に驚き慌てて鏡を探す。
室内ではないため当たり前のように鏡などなく、見渡した先に見えた池まで走った。

いや、これまでの走るという概念が捨てられ、むしろこれは飛び跳ねているのではないか。
のんきにそう思いながら辿り着いた池の水面に顔を映す。
次いで頬、鼻、額を触るも、あるにはあるが自分の知っている場所にはそれらがなかった。

ああ、やはり。

自分はかえるになってしまったのだと、今東宮の皇子はそう思った。


今上には二人の男御子がいた。
一の宮は最初に入内した内大臣の娘である女御腹で、二の宮はその後入内した左大臣の娘である中宮腹の御子だった。
今上は二の宮の母を中宮と置きながら心密かに寵愛していたのは女御の方で、それ故女御腹の御子に東宮宣下を与えた。

その決定に中宮の父である左大臣は当然の如く怒り、事あるごとに一の宮の東宮廃止を目論みていたのだが。
とうとう東宮は身分だけではなく、姿自体を変えられてしまった。



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