痩せ衰えた手が、少女の両頬に触れる。
その手はまるで骨のように細く、乾いた熱を孕んでいた。
「姫、姫。わたくしの可愛い姫……」
艶を失った唇が、カサリと名を囁く。
少女は息を詰めたまま、真剣な面持ちでその双眸を見つめた。
微かな吐息さえも、聞き逃さないように。
「わたくしの言葉を、刻みつけて。一言一句、違えずに……その小さな胸に、刻みなさい」
「はい、母さま」
従順に頷く娘に、幽鬼のように白い単をまとった女は、すっと口角を上げる。その容貌は、背筋が凍るほどに美しいと少女は思った。
失われたはずの紅色が、母の白い面に華を咲かせる。艶かしい恋歌を口ずさむように、言の葉が紡がれる。
――そして女は、己の全てを込めて、娘に呪いをかけた。
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