徒花の番
 

「いい加減にしろ!」

 静かな邸内に怒号が響き渡る。
 声の主は此処の主人、右大臣のものだ。
 壮年の彼は肩を怒らせ御簾内にいる一人娘を睨み付けていた。

「私は事実を申し上げただけですわ」

 そう吐き捨てるように告げて文机にある文を御簾へ向けて放るのは都屈指の美女、菖子(しょうこ)だ。
 けれどこの姫、見る者誰もが麗容だと称賛する相貌に反し性根の悪い事この上ない。
 以前から送られてくる文を流し見るだけで和歌が下手だの嘘臭いだのと文句を並べ、気に入る男性が見つかればと宴を催せば対屋からそれを垣間見て容姿を蔑み、見掛けた文使いが汚らしいからと持参した物を受け取らず女房に命じて地面に投げ捨てさせるなど、非道を平気で行う姫なのだ。


 ――正に徒花。外見がいくら美姫でも、中身が醜女(しこめ)では話にならない。


 菖子を娶りたいという話は次々と舞い込むが、こうも性格が悪いと右大臣家の恥で誰にも嫁がせられず入内もさせられず、十七になる今も未婚のままである。



- 2 -

*前 | 次#

作品一覧へ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -