平安異聞録
2
 

どよよん、と暗雲が浩次の背後に出現した。ぶつぶつと、誰となく呟き始める。
頭に浮かぶは、酒壺を片手に杯を豪快に仰ぐ友人。
誰よりも自由で、誰よりも常識に外れていた・・・浩次の知る限り最高の腕を持つ陰陽師。
そして、性格は知る限り最悪でもある。

「・・・腹を括って、酒を手土産に行ってみるか。」
陰陽師:風野 司(かざの つかさ)の元に。

***
ほーほーと、どこかで梟が鳴いている。
四方を木々に囲まれた、山の中腹。
そこにひっそりと隠れる様に門があった。
夜陰に紛れ、ぽつりと門だけが取り残された様に存在している。
瓦は剥がれ、木は朽ち果て、門扉は片方が既に朽ち壊れてしまって完全に門の役割は果たしていない。

邸を失い、時期に残った門すら、その姿を失う一歩手前であろうという状態の誰も来ないであろうその場所に、浩次はいた。
顔を顰め、来たことをかなり悔いている様子だが。

「・・・・前よりぼろくなってやがる・・。」
はぁぁぁ・・と重すぎるため息を吐き出すと、片手に引っさげてきた酒を持ち直し、おもむろに崩れかかった門へ近づいた。

「篠木 浩次(しのぎ ひろつぐ)だ、司殿に目通り願いたい。」
酒は持ってきた、と最後に付け加える浩次。
傍からみたら、一体何をと聞きたくなる行為だが、おかしくなったわけではもちろんない。
場に響いた声が収まったころ、門の向こうから風がほのかに吹いてきた。

それを感じとった浩次は、門前払いは避けられたと安堵すると、崩れていない門扉に手をかけた。
壊さない様に、慎重に門を押す。

―風野 司は、公には既に故人となっている。

門のむこう側、本来ならそこは木々の生い茂った何もない場所だ。
しかし、門を開いた先には整備された庭があった。
小さいながら、透明な水を湛えた池があり反橋と中島もある。

「浩次様。」
何度訪れても慣れないその光景に感嘆の声を上げていると、鈴の様な声音に呼ばれ、その方向を手繰って視線を向ける。



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