君をわすれじ
 



 雪花の四十九日は、まもなくしてやってきた。
この日を境に喪が明け、御はてを行う。そして喪に服していた者は河原にて禊を行い、喪服を脱ぐのだ。
 冬麗の天候の下、先日降り積もった雪は徐々に溶かされており、雪の下からは春の訪れを感じさせる蕗の薹が顔を覗かせている。新しい命の季節が、始まろうとしていた。


「おかあさま、ちゃんとあっちに行けたかなあ」

「大丈夫ですよ。安心してあちらの世界に行けたと思いますよ」


 御はてが終わり、まだ雪の残る庭のもと雲ひとつない晴天を見上げ不安そうに呟く姫に、明石弁は心からの笑みでそう返した。


 あの日から、季惟は魂が戻ったかのように徐々にもとの季惟に戻っていった。
時たま妻を思い出し悲しげな表情を浮かべることもあったが、前のように部屋に篭ったり出家したいと言う事も無くなった。それが何故なのか、家臣達にはわからない。だが元の姿を取り戻した主の姿に、屋敷の暗い空気も取り除かれ、和らいでいった。


「小姫」

「あ、おとうさま!」


 ふと、姫の後ろで優しい声が姫を呼んだ。
姫が振り向くと、それはいつの間にか庭に出てきていた季惟であった。笑顔を浮かべ、さくさくと雪を踏み姫に近づいてくる。痩せていた体はほぼ戻りつつあり、喪服を脱ぎ束帯姿となっている。
 近くに居た明石弁は主に深く頭を垂れ、気を利かせ簀子へと下がって行く。それを見送った姫は視線を季惟に向けた。


「お話はおわったの?」

「うん。お坊様も帰られたよ」





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