「…ありがとう。冷たかったろう?」
だが娘の前で涙を流すのはどこか気が引け、それをぐっと堪える。そして季惟は力のない笑顔を浮かべ、姫の手を握った。
もう夜も遅い。ただでさえ寒いというのにあの雪の中でこれを作っていたのだ、姫の小さな手は可哀相な程冷たくなっており、思わず触ろうと伸ばした手を引っ込めてしまいそうだった。
そんな父を姫は暫くじっと見つめていた。生気の無くなった瞳を、ずっと。
だが突然おとうさま、と口を開くと、まっすぐな瞳で父の手をぎゅっと握り返した。
「あのね、わたし聞いたの」
「…え?」
「人が死んだらね、四十九日はその人はまだここにいるんだって。まだ死んだ人のせかいに行けないから、だから御はて(※二)をするんだって。おかあさまもね、まだここにいるの。近くにいるの。でもね、今のおとうさまのままだと、おかあさま安心して死んだ人のせかいに行けないの」
そして最後に、今の季惟には眩しすぎる程屈託のない笑顔を浮かべた。だからね、と目を細めて。
「おとうさま。はやくもとのおとうさまに戻ってね」
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