薄明かりに浮かぶその人物を見た瞬間、思わず季惟はそう呟いていた。
無意識に、目頭に熱いものがこみ上げる。ああ、やっと会えた、と。
しかし瞬いた瞬間それは煙のように消え、その代わりにそこには一人の少女が佇んでいた。
「小姫…?」
そこには愛しの妻によく似た、娘の姿があった。と同時に、受け入れなければならない現実が再び季惟に突きつけられた。やはり彼女には会えないのだ、と。
姫は自分と同じ色の衣に見を包み、両手には何かを乗せた盆を持っている。
「かってに入ってごめんなさい、おとうさま」
怒られると思ったのだろうか、姫はいつになく不安そうな顔で頭を下げた。
そういえば、この子に会うのはいつ振りだろうか。最後に見たのは、雪花が亡くなった時かもしれない。しかもその時でさえ、きちんとこの子の顔を見た覚えはない。
「お外にね、雪がふってたから、おとうさまにもお見せしようと思って」
そう言って近づいた姫は、季惟の前に盆を置いた。同時に、一層ひやりとした冷気が季惟の周りに流れ込む。
漆塗りの上に朱塗りが重ねられたその盆の上には、白い塊が乗せられていた。その先の方には南天の実が目のように付けられている。
「うさぎなの」
上手くできなかったけど、とその後に付け加え、姫は苦笑を浮かべる。
よく見れば、兎に見えないこともない。少し歪だが、耳があるべき場所には長く雪が盛られている。
自分を元気付けようとしてくれたのだろうか。ああそういえば、雪花も雪が好きだった。冷たいけれどあの輝きが好きなのだと。それを思い出し、鼻の奥がつん、となる。
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