「それに姫様、今お父上は…」
だがそれ以上言い募る事は出来ず、明石弁は言葉を切った。
父である季惟は妻を亡くした悲しみで、この喪の期間ずっと部屋に篭っているのだという。誰が何を言おうと季惟には届いていないのか、食事には少し手をつけているもののまるで外に出てこない。
家臣たちは悲しみに暮れる主の姿に心痛め、心配こそしているのだが、妻を失った痛みを彼らには癒すことも出来ず、せめて二人の娘である姫が寂しくないようにと心配らせているのだが、その姫は唯一の肉親である父にも全く会えていない。
「でもずっとお部屋にいるとおからだが悪くなると思うの…」
萎れた花のようにうなだれる姫に、明石弁はかける言葉もなかった。
事実、姫に季惟のもとへあまり行かないように言っているのは自分である。それは今は季惟を一人にしていた方がいいだろうと判断したからだ。
しかし父母の居ない幼子の寂しさを、自分が全て癒せるわけではない。
どうすればいいかわからない姫にように、今この屋敷に仕える家臣たちも、どうすれば季惟がもとのように明るい姿を取り戻してくれるのか、わからないでいたのだ。
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