ゆめの通ひ路
11
 

「思ひ出づ もみぢ葉あをき 我がつぼの そを見ゆるべし ゆめの通ひ路」
(もみじの葉が青かった昔のように、この邸に居た幼い頃を思い出していました。貴女と昔話が出来るだろうと、やってきましたよ)

ぱさ…

と、御簾の揺れるかすかな音。

高比良は相変わらず、御簾の向こう側…。

「…また…碁を打ちに来ても良いかな?」

少し間を置いて、高比良は言った。

しかし、由芽が返事をするよりも早く踵を返した高比良は「おやすみ」と声をかけると静かに局の前から退散してしまった。

 (高比良さまは、今何をしようとしていらしたのかしら!?)

深く考えなくても分かった。
 
体中の血液が沸騰したように身体は熱く、心の臓が早鐘のように鳴り響いている。

(高比良さまは…姫さまの和歌の意味を分かっておいでだったんだわ!)

由芽の中で、恐怖にも似た驚愕が押し寄せて心が潰れそうになった。

 しかし返歌どころか、高比良の言葉に返事を返せなかった事が心に残る…。

漠然と…

返事をしないままだと、もうお目にかかることはできない…

という思いが湧いてくる。

実際、近い未来…そうなるであろう。

自分の邸宅に住まう彼はいつか身分相当の娘を娶り、滅多なことでは生家に足を向けなくなるだろう。

そうなればもう…二の姫の乳母子である自分と碁を嗜むなど二度と無い。

「幼馴染」という縁も無きに等しくなると悟った時、由芽は世間体を考えるよりも早く、局から飛び出していた。

 「高比良さま!」

まだ、彼の姿は透渡殿に有る。

(これが高比良さまの姿の見納めになるなんて…いや…!)



- 11 -

*前 | 次#

作品一覧へ

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -