(そういえば…二の姫さまの詠まれた和歌に、高比良さまはなんと思われたのかしら?あの時は、高比良さまのご感想は聞きませんでしたし…)
由芽は碁盤の前に座ると、懐から二の姫の和歌がしたためられた御料紙を取り出した。
もう一度、その和歌をじっくりと読んでみる。
「この、ゆめの通ひ道…のゆめは、私を指しているに違いないわ…。考えすぎなものですか…。姫さまのあの意地悪そうな顔が、私の考えを肯定している証拠よ…」
幼い頃より二の姫の傍に居たのだ。他の女房よりも、姫の思考を読み取ることに長けている自信はあった。
それと同様に、二の姫も幼い頃からずっと一緒に育ってきた由芽の思考を読み取ることが出来たのだろう…。
(迂闊だったな…。姫さまの前で動揺してしまったなんて…)
と由芽は自嘲の笑みを零すと、文台の上に並んだ文箱の中の少し大きめで、白い貝で花を模った美しい螺鈿細工のそれに、二の姫の和歌を入れておいた。
(ただの憧れよ…。忍ぶ恋なんて以ての外…。昼間、高比良さまと目が合い緊張したのも幻よ…)
由芽はそう自分に言い聞かせると、碁盤に黒白の碁石を並べて一人で碁を打ち始めた。
別の局からは、宴の続きを楽しむ女房たちの声が聞こえる。
(いつもだったら、私もあの輪にまじっているのにな…)
他を羨むやるせない気持ち。
(でも、あの輪に入ったら…姫様の和歌で詮索されるかもしれない…)
心に蟠る不安…。
ぐるぐると色んな事を考えてしまい、碁を打つ手が止まってしまう。
由芽は深呼吸を一つすると、目の前の碁盤に集中する事にした。こうやって碁に集中してしまえば、余計な事も考えずに心も落ち着くのだ…。
「由芽?」
「!?」
局の外から名を呼ぶ声が聞こえ、由芽はびくりと肩を震わせた。
幾時間たったのだろうか?まだ別の局からは騒がしい声が聞こえるし寝殿にも明かりは灯っていた。
「高比良さま?」
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