ゆめの通ひ路
 

何故か逸る胸中…。

由芽は空欠伸を一つし、何事もなかったように膝上に落ちた檜扇を拾い上げた。

「眠いのですか?」と母である乳母に問われ、由芽は軽く頷くと「申し訳ございません」と答えた。周囲の女房たちがくすくす笑っている様を見て、巧く誤魔化せた…と、由芽は胸を撫で下ろした。

(良かった…。皆、詮索しないでくれて…)

高比良の和歌に動揺したなど、誰にも悟られたくない。

悟られてはいけないのだ…。

(幼馴染と思ってもらえるだけでも、身に余ることなのに…)

すると、二の姫が由芽に和歌をしたためた御料紙を差し出してきた。

こういった宴の席で姫の言葉や和歌を伝えるのも、傍仕えである由芽の役目。由芽は姫から預かった御料紙にさっと目を通すと、御簾の向こうに声をかけた。

「もえたりて ゆめの通ひ路 たづねなむ 待つのみばかり もみぢ枯れぬる」
(私はもう、恋に燃えていますよ。ゆめの中で尋ねて来てください。待っているだけでは、私も貴方ももみじも枯れてしまいます)

「?」

二の姫の和歌を読み上げて、由芽は小首を傾げた。

目を通した時は深く考えもしなかったものが、読み上げて気になりだす時もある。

(この和歌に、果たして「ゆめの通ひ路」は必要だったのかしら…?)

もう思いを寄せているのだから会いに来てほしいという大胆な発言に対し、夢の中だけでも構わないなど少し消極的で、相反する気がしたのだ。

(この和歌の「ゆめ」は、「夢」じゃない…!)

はっとなり、由芽は恐る恐る二の姫に振り返った。

すると姫は意地悪そうな笑みを浮かべていた。

胸が詰まって、呼吸が苦しくなる…。

よりによって…主である二の姫に勘付かれてしまった…。

しかし、この歌の真の意味を悟ったのは由芽だけだったようだ。

二の姫の大胆な和歌に周囲は盛り上がっているだけ。



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