「私が御傍に居ながら、姫様に何かあったなら…!」
碁に夢中になって、二の姫の心を察しなかった事に後悔の念が押し寄せる。
しかし泣いている暇など無かった。
姫の身を案ずるなら、探すしかない。
やがて従者や家司もやってきて二の姫の大捜索が始まった。透渡殿を潜って邸の表の庭へと出て行った可能性もある。男たちは外をくまなく探し、室内も女房たちが手分けして探した。
夕暮れ時…
童たちが居た対から遠く離れた釣殿で、二の姫は見つかった。
どうら、床下に潜って人目を避けながら行動していたようだ。発見された二の姫の衣は随分汚れていたが、二の姫は満面の笑顔で事を楽しんでいた。
そうして乳母に叱咤を食らった二の姫と由芽は塗籠に閉じ込められ、桐君と二の宮の碁も、二の姫の失踪劇で勝敗のつかぬままその日は終えてしまった。
ぱちん…
軽快な碁石の音に合わせ、高比良と由芽は昔話に話が弾む。
ぱちん…
「二の姫が相手では、由芽も気が気でないだろう?」
ぱちん…
「おかげで落ち着きを得ましたよ…」
ぱちん…
「確かに!姫と同い年だというのにね!」
内容は専ら、二の姫の事であるが…。
それでも、二人は思い出を共有できる幼馴染の存在に心が温まった。
ぱちん…
(この温かな思いが続けば良いのに…)
…ぱちん……
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