ゆめの通ひ路
 

桐君はきょとんとした表情で女童を見ていたが、二の宮は満足そうに「由芽は碁の才があるんだね」と笑みを零した。

そして「年下の女童に助言してもらうなんて、桐君はまだまだだ」と付け加え、大声で笑い出した。

女童…由芽は、桐君…後の高比良に対して失礼なことをしたと思い、「以後絶対に口だししない」と心に決めた。しかし目の前で黒白の碁石が盤を埋め尽くしていく様は、幼い由芽にはとても面白く映った。

こうやって、元服前の高比良と二の宮が碁を嗜むさまを一の姫と二の姫と共によく見物していた彼女は、誰に教わる事なくその醍醐味を覚えていったのだ。

しかし人が碁を打つ様を見て「面白い」と感じる子供はなかなかいないもの。

例にも漏れず、幼い二の姫は碁の見物に飽きたのか大きな欠伸をしていた。

既に裳着を済ませていた一の姫は、良く皆の遊ぶ様を局から御簾を挟んで見ていた。そして妹姫の欠伸に「はしたないですよ」と咎めるのも良く有ること。

姉姫に咎められ二の姫がなんとも居心地悪そうな顔で居たのを由芽は横目で見ていたが、それより目の前の碁盤に夢中になっていた。
 
 一陣の風が走り抜けて、一の姫の居る局の御簾を揺らす。

「あら…?」

一の姫が揺れ動く御簾の裾をたくし上げ、顔を覗かせると一言…不思議そうな声を上げた。

「二の姫は…?」

「え…?」

気がついた時…

二の姫の姿はその場になかった…。

衣擦れの音にも気付かなかった程に集中していた一同は、二の姫の失踪に頭が真っ白になった。

桐君は頭を掻き毟りながらひたすら二の姫の名を叫び、「私が欠伸を咎めたせいだ」と一の姫は狼狽した。大人手に姫の捜索を頼もうと懸命な判断をした二の宮さえも、碁石の壷をひっくり返すさま…。

年上の者たちが取り乱し、騒ぎに気がついた女房達が何事かと局から出てくる中、由芽は一目散に壷庭に降りると二の姫を探しはじめた。

「壷庭という範囲内なら、姫さま一人でも行動できます!姫さまは良く壷庭で遊ばれるもの!」

そう言って茂みをくまなく見て回ったが、姫の姿は見当たらない。

由芽は、目頭が熱くなり涙が零れそうになるのを必死に堪えた。



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