君恋ふる、かなで
19
 


帝の言葉に従い、突然訪ねたふたりの姿に驚くこともせず、藤壺は普段と変わらぬ様子で彼らを招き入れた。
ただ、いつもは上座に座る彼女が、今日だけは為直たちと同じ席に腰かけているのが違和感を覚えた。

だが、彼が問うよりも早く、室の外が騒がしさで包まれた。藤壺がにこりと微笑む。

「あら。ようやく、いらっしゃったようですね」
「は?一体、どなたが――」

その答えは、何と外から響き渡った。


「――藤壺女御、帝のお渡りでございます・・・!」


その来訪を告げる女官の声よりも早く、上座にしゅるりと衣擦れが落ちた。
身軽な装束に着替えてはいたが、その龍顔は見間違えようがなかった。

「お、主上・・・っ!?」

慌てて平伏する為直と玉依姫とは裏腹に、祥子女王はおっとりと微笑んだ。

「いらっしゃいませ、主上。皆、待ちくたびれておりましたのよ」

先程、謹慎を言い渡されたばかりだというのに、常と変わらぬ態度の妃に今上――由玲親王は愉快な笑みを零した。

「すまないな。ところで女御、例のものは」
「えぇ、もちろん用意させておりますわ。・・・白菊、こちらへ」

白菊が静かに今上の元へと侍り、何かを手渡したのが気配で分かった。

「・・・少将と玉依姫も、顔を上げなさい」

その言葉に従い、落ち着かない面持ちのままふたりが顔を上げる。
胡坐をかいた主上の膝には琴の琴が置かれていた。

「なに、朕も楽には自信があるからな。玉依姫と一曲、合わせたいと思ったのだ」
「・・・はい。では、どの曲を」

ポロン・・・と手馴れた手付きで調弦を行ったまま、少年のような顔で希う彼に、戸惑いながらも少女は頷いた。




「そうだな――それでは、今宵、最後の曲を」





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