君恋ふる、かなで
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「羅城門に住まう鬼も、かの博雅三位と楽を愛するお心を交し合い、朱雀門の鬼は秘宝である玄象を持ち出し、巧みに弾いて見せましたわ。・・・玉依姫の楽の音は、その生まれによって否定されてしまう程度のものでしたでしょうか」


この国最高位の帝や、彼に連なる百官武官を目の前にしても自我を貫き通す・・・それが祥子女王という女だった。
したたかすぎる、深窓の姫君。
彼女の反論に、無礼だ、との声がぽつぽつと挙がるが、今上自身がその雑音を制した。

漆黒の瞳が閉じられ苦笑が漏れる。

「・・・相変わらず、そなたは強気だな。たまには殊勝になるべきだぞ」
「・・・以後、気をつけますわ」

寵愛する妃の我侭を許すように、由玲は再び微苦笑を零した。
腰を半ば上げたままの兵部卿宮に向かい、告げる。

「兵部卿宮、あとでこの娘にお灸を据えてやれ。・・・今回は、この晴れの場と玉依姫の素晴らしい演奏に免じて、十日の宿下がりで許そう――良いな、藤壺」
「はい、仰せのままに」

彼女の殊勝な返事に、主上は玉依姫を見やった。

「さて、玉依姫。一番の奏者には褒美を与えたいと思うが、何を望むか」
「・・・それでは、一曲だけ、この場で琵琶を弾かせて頂くことをお許し下さい」

玉依姫が望んだのは、形ある物ではなかった。
今上も驚き、目を瞬かせたが、結局はそれを許した。

「して、何の曲を披露してくれるのか」
「曲名は、存じ上げません。けれど、母がわたくしに唯一遺してくれたものです」


藤壺に頼んで持ってきてもらった愛用の琵琶を片手に、少女は未だ緊張の残る面持ちで答えた。
身を乗り上げるように人々はその演奏を待ち構えた。
半月に良く似た撥が、月光を受けて弦に添えられる。深呼吸をしたあと、玉依姫は意を決してその曲を奏でた。



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