君恋ふる、かなで
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「――えぇ、左大臣の仰る通りですわ」



(どうして、否定しないんだ――!!)

あまりにもはっきりと藤壺が答えるので、少将は危うく問いかけそうになった。
父宮の方を見れば、どういうことだ、とでも言いたげな瞳でこちらを見ていた。

だがそれは為直の方が聞きたい。

玉依姫の方も、まさか藤壺が自分の正体を明かすとは思っていなかったのだろう。
ぬばたまの瞳が、目一杯に見開かれていた。

どう考えても、ここで少女の名を明かすことは藤壺にとって不利益にしかならない。
珠子内親王は今上の斎院として封じられながら、玉依姫を宿し、その役目を剥奪された。
母親を早くに亡くした帝にとって、内親王は叔母であり、母であり、姉のような存在であった。

そんな彼女の密通は由玲からすれば最大の裏切りだったのだろう。斎院の退下後、一切連絡を取り合わなかったことからも、その心情が伺える。

その、主上の前で。
藤壺は隠すことなく玉依姫の正体を明かしたのだ。
ざわり・・・と、宴に参列した人々の間にも、緊張と困惑が走る。


(まぁ、主上の宴にあのような娘を引き出すなんて)
(このような晴れの舞台に災厄の姫など)
(藤壺女御の御心を、疑いますわ)


姉の寵愛に不満を抱く他の妃たちの局からは、ここぞとばかりに嘲笑が零れる。
誰もが成り行きを見守る中、由玲親王はそのぬばたまの瞳を細めた。

「藤壺、朕(わたし)に弁明はあるか」
「まぁ、弁明など・・・妾はただ、玉依姫の美しい音色で本日の宴を盛り上げたいと、そう考えただけでございますのに」

これだけ人々の注目を浴びながら、姉は相変わらずゆったりとした口調で答えた。

「ほぅ・・・そのために、玉依姫を?」
「あら、主上は玉依姫の琴の琴をお気に召されませんでしたか?」

彼女の声は、微笑んでいた。
けれど、御簾で隠れていようとも、その瞳に宿す色が為直には容易に想像できた。


――打ち出でた蘇芳の装束と同じ、苛烈な色彩。



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