君恋ふる、かなで
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女房たちの間にも、貴族たちの間にも、感動が名残る。
誰もが感嘆の溜息をつき、競い合っているはずの妃たちの間ですら、お互いの賞讃が響いた。
女楽の演奏により最高潮の熱気が弾け、その場に満ちていた。

「主上、どうぞ判定を」

兵部卿宮の声を受け、由玲親王は少し思案する様を見せた後、朗らかな声で告げた。


「・・・女楽の勝者は、藤壺としよう」


藤壺の局だけではなく、そこかしこから喜びの声が上がる。
玉依姫の演奏は誰もが認める音だった。

「では、藤壺の奏者はここへ。褒美を遣わそう」
「は、はい」

玉依姫が、緊張の面持ちで御簾の内から姿を現す。
先程のものとは違う色の歓声が沸き立ち、その中で紫の少女がゆっくりと帝の御前に進む。
だが、彼女が今上に拝礼し、その玉顔を上げたそのとき――。

「ぁ」

帝の傍に控えていた年嵩の女官が短い悲鳴のような声を上げた。
その声は意外にも響き、主上や重臣たちの耳にも届いた。

「・・・如何した、王命婦。帝の御前だ、正直に申し上げよ」

左大臣に強く問われ、王命婦と呼ばれた女官はおずおずと言葉を紡いだ。

「お、畏れながら・・・藤壺の奏者の方の面差しが、亡き中宮さまや前斎院の宮さまと生き写しでございましたので。・・・あのような、はしたない声を上げてしまいました」

どうぞお許し下さいまし、と彼女はそれ以上そのことが話題になるのは避けたかったようだが――何しろ、今は主上主催の宴の最中である――貴族たちは、それを許さなかった。

(・・・油断してた)

誰もが玉依姫の顔を知らないと高を括っていたが、重大なことを為直は見逃していた。
命婦のいう亡き中宮とは、今上の実母であり、前斎院・珠子内親王の実姉である。
その瞳以外、亡き母に瓜二つである玉依姫の容貌が彼女に似ているのは仕方がない。

問題は、中宮腹の御子は由玲親王のみであり、彼女の面影を宿すであろう親族は今上と姪にあたる玉依姫しかいないことであった。

参列者たちも、そのことに至ったのであろう。問いかける視線が空気を乱す。


「・・・藤壺女御、もしやその少女はあの玉依姫ではないのかね」


重臣を代表し、左大臣が藤壺の御簾に声をかける。
事情を知る白菊はともかく、他に控えた侍女たちの間にざわめきが起こるのが伝わった。
彼女らを宥める声が響いたあと、藤壺女御は左大臣に劣らない、はっきりとした声音でその問いに答えた。



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