君恋ふる、かなで
13
 


童舞と楽士たちの演奏に続き、名月を褒めそやす歌会が行われる。
美声の貴公子らが朗詠する声に、どの局の女房もうっとりと頬を染めて聞き入った。
老輩の官人たちも負けじとその場で舞を踊りだし、人々の笑いを誘う。


やんや、やんやと熱気が最高潮に達する中、とうとう女楽が始まった。
為直たちも紫宸殿の廂へと昇る。奏者たちの間では調弦が行われているところだった。


「今回の女楽は、随分と華やかなようだな、藤中将」
「・・・えぇ、どの女御方の演奏も素晴らしく、我々も気が抜けないほどです。きっと、主上もお気に召されるかと」

今上に問われ、憲継がにこやかに答える。満足弦げな笑みが返された。
そこへ女官が奏者たちの様子を告げる。

「――では、藤中将は笙の笛を、源少将は龍笛を」
「・・・御意に」

彼の一声を合図に、調子合わせの音が螺旋を描き出す。
そして、女楽の奏者たちの音が追った。

試楽同様に、どの奏者の演奏も素晴らしかった。


登華殿の和琴は華やかで、少し癖のある弾き方が、逆に音に彩りを添えていた。

次いで麗景殿の箏は何処までも軽やかで、十三本の弦を使い、巧みにそして可憐に弾き熟していた。

対する梅壺の琵琶は、他の奏者と比べて古風な弾き方をしている。けれど、その上品な音律は女楽全体を引き締め、優しく包み込むような音に安堵を覚えさせた。


けれど、それ以上に玉依姫の琴の音は人々を驚かせた。


その巧みさは、試楽のときよりも上達していた。
凛と響く音は優しく、時折添えられた独自の音は他の三音に劣らず華やかに咲く。
だがその個人の腕前だけではなく、他の奏者たちに合わせるように、時には強く、時には囁くように、見事に音を変化させながら自由自在に弾き熟してみせた。

(・・・あ)

ふと、登華殿の和琴が音を見失った。
緊張で手が止まってしまったのだろう。隣を見れば、憲継が小さく顔を顰めていた。
だが、そのとき不意に楽譜とは異なる音律がその間を補った。
登華殿の様子に気づいた玉依姫が、その場で適当に弾いて見せたのだった。
そのあまりにも自然な琴の音に、見物客は誰も失態があったことには気づいていない。
少女に助けられ、和琴は再び演奏に戻った。

(・・・凄い)

為直は、ふと笑いが込上げるのを感じた。
少女に負けまいと、笛を持つ手に力が籠もる。単純に楽しいと思ったのは久々だった。



人々の関心を大いに惹きつけたまま、最後の音が奏でられ、そして静寂へと還って行った――。



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