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ほけんたいく

ぼく、どうしちゃったんだろう。

お風呂上がりの火照りがなかなか冷めない体をベッドに横たえて、吹雪は今日のできごとを脳内でゆっくりと巻き戻す。

豪炎寺は寮の前まで一緒に来てくれた。

『今日は………ありがと』

『ああ。また二人で会おう。お前さえよければ』

確信犯、だ。
優しく細められた眸の漆黒に、吸い込まれしまいそうで…………うつむいた吹雪の頭髪に触れる彼の手のぬくもりにも心震える。

“デートの手本にはならない”なんて、よく言えたものだ。

今日の彼の振る舞いは完璧だった。
キスだって……………触れた唇に植えつけられた熱が全身を覆いつくして、心まで溺れそうで…………苦しい。

「ハッ……!しゅくだいっ!」

夜の10時過ぎ。
吹雪は慌ててベッドから飛び起きた。


吹雪士郎 : 遅くにごめん。宿題のプリント持って帰るの忘れちゃった。ある?

机に向かう豪炎寺が、着信に気づいてLINEを開いた。

そしてすぐさま自分の机上にあるプリントの画像を送信する。
今解き終わったばかりの答えが書き込まれたやつだ。

吹雪士郎 : えっ、すごい。これいいの?


豪炎寺 : 良いも悪いも、それしかないからな


吹雪士郎 : わーい(ハート)やった〜(ハート)(ハート)答え写しちゃっていい?


豪炎寺 : 好きにしろ。合ってる保証はないけどな


吹雪士郎 : 君なら大丈夫(ハート)(ハート)(ハート)

ご機嫌な絵文字がどんどん増えていく画面を見ながら、豪炎寺の頬が珍しく緩んでいる。


“これは夢じゃないんだ”
翌朝、目覚めても、吹雪の気持ちは満たされていた。

頭がお花畑、とはこのことを云うのだろうか。
ふわふわした足取りで登校した教室で…………真っ先に豪炎寺と目が合いそうになった吹雪は、慌てて視線を床に落とした。

こんな時にかぎって一限目は保健体育だ。
しかも教師が語る学問としての“性の話”に、真面目に耳を傾けなくてはならない。

このテの授業できく“家族計画”という言葉は、いつも吹雪の心を少し擽った。卑猥な意味じゃなく、家族に囲まれた将来の自分を連想させるのだ。
そう。
性の交わりは家族をもつために必要なステップの一つだ。
でもそれは最終段階で、その前にまずは恋とか、デートとかいろんなステップを踏まなきゃならない。
つまり家族計画以前に、恋人計画、結婚計画……そのための資金計画とか、立てなきゃならない計画は山積みで気が遠くなる。

でも今日はどうしたんだろう?恋さえままならずにいるくせに、性の話がやけに生々しく聞こえる。

“あんなふうに興奮してもらえるかな?”とか“あんなの体にちゃんと入るのかな”とか、男性器のしくみの話を聞きながら考える。って、待って…………おかしい。
“受け入れる”側の思考になってる自分に、吹雪は軽くパニックしていた。

「…………っ」

混乱しながらもふと背中に感じる視線。
振り返ると、右斜め後ろの窓際の席にいる豪炎寺とバッチリ目が合った。

ギクリとした彼の表情。
目を丸くして息を呑み、吹雪も固まったのは……さっきの説明で想像していた男性器のことがまさに“彼の”ことだったと気づいたから。

やばい。
やっぱ、僕どうかしてる。そして彼も少しヘンだ。
いつもは堂々としてるのに、今目が合った時、赤くした顔をそらした………!


二人の間に生まれたぎこちない異変。

その原因が、昨日のデートのせいとは考えたくない。
むしろ距離は縮まったはず。いやいや縮まりすぎた距離感に、お互いが戸惑っているのかもしれない。

モヤモヤする。なのにどこか、まだ浮かれてる…………

放課後。部活に打ち込んでモヤモヤを振り切ろうとしたって、ダメだ。視界の端でいつも互いの動きを捉え合ってしまう。
もちろんそれはプレーに必要だからだ。
全体練習が終わった後の特訓もずっと、離れず一緒にやっている。

彼の動きをいちいち追って心を揺らしながら吹雪は思う…………自分の一日の中で、豪炎寺との接点が多すぎる。
傍にいなくても困るけれど、今は傍にいる方が困る。


ゴロゴロ…………

曇天の向こうで小さな雷鳴が吹雪の鼓膜に届いた気がしたのは空耳だろうか?そうじゃないとわかったのは、豪炎寺も足を止めたからだ。

「そろそろ終わるぞ」

分厚く暗い雲を見上げながら、豪炎寺が言い放つ。

“えーっ!”と不服げな声がゴール前から上がるが、意に介さずその場を立ち去る豪炎寺。
その背中を見送りながら、吹雪は心の奥をせつなく疼かせている。
彼が雷にいち早い反応を見せるのは、二年前自分がさらけ出した弱味のせいに違いないのだ。

「吹雪ぃ、お前もう少し付き合ってくれるよな?」

「……………あ、うん」

いつのまにかギュッと握りしめていたユニの左胸から手を離し、吹雪は笑顔を作って円堂に向きなおった。

 
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