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おまけ

あの晩から僕は永い眠りから醒めた。
思い出の部屋で交わした「おはよう」のあと、僕は
豪炎寺くんからの告白を受け入れ、恋人同士でディズニーデートを楽しんだ。

その後、結局彼の家を出ることもなく、お父さんと彼とで、ずっと一つ屋根の下で暮らし続けた。
後ろめたさはほとんどなかった。むしろ家族の一員として必要とされている空気さえ感じられる気がして。

その風向きは豪炎寺くんが作ってくれたものだ。
僕との兄弟ごっこの傍ら、彼はずっと敷かれたレールと戦ってくれていたと後で知った。
紫野原家との縁談とも誠実に向き合い、両家の父と亜彩さんに対して、僕への思いを貫く姿勢を通したことが、信頼に繋がったみたいだ。

おかげで一時は気まずくなっていた僕と紫野原家の交流も復活し、教授は卒業間際の僕の進路選択も後押ししてくれた。
それで僕はR大系列の医療系専門学校に通い、絵画による心理療法を学んで今に至ってる。


あれから二年。

6年制の医学部と僕の専門学校の卒業が見えてきたタイミングで、僕ら二人は、まだ冬が残る北が峰で同棲生活をスタートさせていた。
引越が落ち着いた昨夜は、日が沈む前から新しいベッドで存分に抱き合って………

「おはよう」

「おはよ………わっ、かっこいい」

起きると同時に、慌ただしく身支度を始める豪炎寺くんは、下ろした髪を後ろに一つ括りにしてて……いつもと違う雰囲気に視線は彼に釘付けだ。

「仕方ないだろ。髪を整える時間が無かったんだ」

「昨日あんなに激しくするからだよ。それも三回も…」

「っ、違う。お前がアラームを勝手に止めたからだ」

………あ、そうだった。
たまたま先に気づいた僕が、豪炎寺くんの寝顔に見惚れて止めて………なんだかすごく満ち足りた気持ちでまた寄り添って寝てしまったんだった。

「ごめんごめん。朝ごはん準備したから食べなよ」

できてる、といってもメインは昨晩君が仕込んだスープに、今朝僕が握ったおにぎりを添えたものなのだけど。

「手際がいいな、ありがとう」

先に食卓についた彼に遅れて、僕がお茶を出しながら座ると、彼がハッとして立ち上がる。

「あ、雪かきは済ませて、車の準備もできてるよ」

「………ありがとう。お前がいると助かる」

豪炎寺くんは安堵してまた朝食の席に着いた。

「ふふ、雪国の生活のことは僕に任せて」

僕は得意気に微笑んだ。彼の役に立てるのがとても嬉しくて。


「そうそう、大伯父さんのお見舞いついでに買い出しいくから、ほしいものあったら昼までにLINEしといてね」

「わかった。じゃあ行ってくる」

「うん、気をつけて」

玄関で見送る僕に優しいキスをして、豪炎寺くんは“往診”に出掛けていく。

ここ北が峰一帯は、紫野原家にゆかりある土地だ。
そこでは教授のお兄さんが町医者として飛び回り、かなり広範囲の地域医療を支えていた。
僕にとって大伯父にあたるその人が、スキーで足を怪我して全治3ヶ月………教授を通して豪炎寺くんにSOSが来たのが前年の暮れのことだ。

医師としてどうキャリアを積んでいくか思案中だった豪炎寺くんは、その話を受けて博士課程への進学を一年遅らせ、北が峰での現場OJTに関わることを決めた。
その決断を聞いた僕が、生まれ故郷の町に程近いその土地についていくことを即決したのは言うまでもない。

そうそう。あと、大きなニュースとしてはもう一つある。
豪炎寺先生の申し出で、今年の正月に僕が豪炎寺先生の養子に迎えられたことだ。

家族会議でお父さんからその話を持ちかけられた時、豪炎寺くんは僕が“豪炎寺家のしがらみ”に縛られるのを懸念して、パートナーシップ制度とか、あとはせめて本人同士の養子縁組みとか、他の選択肢も提案してくれたのだけど………
全部検討した上で、僕がお父さんの養子になることを決めたのは“恩返し”のつもりもあった。

紫野原家の血縁者である僕が豪炎寺家の養子に入れば、形は違えどお父さんが望んでいた両家の結び付きもうっすらと出来る。
それがせめて僕が、お父さんにしてあげられることだから――――。

ごっこから始まった二人は奇しくも戸籍上の“兄弟”という形で同じ姓になり愛し合うことができるようになった流れも、僕にとって何だかしっくりくる。

そして、相変わらず豪炎寺くんが僕を「吹雪」と呼んでくれることにも、ひそかな幸せを感じていた。
彼だけが知る“吹雪士郎”
北が峰で壊れた僕の魂を、新しく生まれ変わらせてくれた豪炎寺くんには…………感謝と愛しさが毎日溢れて、尽きることがないんだ。



きょうだいごっこ*完


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