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ちょうど寝ようとしていた豪炎寺くんは、僕の顔をみると当たり前のようにベッドに招き入れてくれた。
いつもなら隣にぴたりとくっつく僕だけど、今日は火照る身体を投げ出すように彼の上に重なった。
そんな僕の“異変”を彼が察知しないわけがない。
「…………身体が辛いのか?」
敏感になってる腰を引き寄せて、彼が訊く。
優しくほどくような声に誘導されるまま、僕は涙目でこくこくと頷く。
「っ、そんな顔をするな」
少し照れたような彼の口ぶりがなんだか懐かしくて………
僕の背筋がピクンと震えて伸びた。
背中を撫でていた温かい手が、そのまま下へ降りてパジャマのズボンの中まで降りてきたから。
「そこ………中入れて………」
彼の指がくるのを待っていたように、押し込まれた瞬間に後ろの口がきつく吸いつくけれど、恥ずかしがってる余裕さえ今は持ち合わせていない。
「もっ……と、たくさん………」
一本、また一本と増える指を、どんどん中へと絡めとる僕の身体。そしてすぐに湿った音をたて、身体のおくが淫らな悦びが溢れはじめる。
「………はっ……………あっ…………も…………ぅ」
着衣を隔ててもハッキリわかる程、豪炎寺くんの硬く熱い昂りも、僕の下腹にくいこんでくる。そこへ意識がいかないように頑張っても、ダメだ。本当はそれを僕の中に突きたてて欲しくて、欲しさのあまり頭がボーッとしてきて。
しらないうちに涙が溢れてきて………それと同時に触れてもない性器が下着のなかで精を吐く。
もちろん、その先は無い。
僕のお尻を包んでいた両手が離れ、奥深くにいた彼の指が引き抜かれていくのを止めるすべはない。
「何処へ行く?」
「…………ん、シャワー」
僕はふらふらと立ち上がり、もう一度バスルームに入って、身体にまみれた行き場のない欲望の証を洗い落とした。
そのあとさすがに彼の部屋には戻れずに、自分のベッドで縮こまるように丸くなる。
目を瞑っても、身体はまだざわめいていた。
えっちな夢で続きをねだりそうなくらい、彼の指の温もりと動きが鮮明に僕の中に記憶されていて、もっと奥のまで彼が欲しいと駄々をこねるんだ。
眠れない一夜が明けて。
ベッドを出る頃にはもう豪炎寺くんがいないことを僕は知っていた。
だいぶ前から彼が起きだした音や、夜勤帰りのお父さんとの話し声もきこえていたから。
それから一週間。
豪炎寺くんは家に帰ってきていない。
連絡はマメにくれるし、通話を繋げば優しい言葉も掛けてくれる。
「学会の準備の詰めが忙しい」とか「そのまま地方の会場へ発つ」とか。
僕に伝えた不在の理由はいろいろあったけど、結局距離を置かれているのだと思った。
寂しいけれど、これは仕方のないこと。
今の二人に必要な距離を、彼がとってくれてるんだと思う。
“兄弟ごっこ”をこのまま続けるためには、この冷却期間の間に、僕自身が姿勢を立て直しておかなきゃならない。
ギャラリーのバイトは、何事もなかったかのように再開した。
僕はさっそく作業場を引き払い、そこに置いていた絵も―――ひとつを除いて全部処分した。
それは僕なりのけじめと、久遠さんへの無言のメッセージでもある。
仕事を与えてくれていることには感謝してる。でも作業場を貸してくれることに“そういう意味”を含んでいるのなら、僕は違う、と。
手元に残した一枚の絵は、亜彩さんへのプレゼント用に、小さな正方形の額に仕立てた。
一面の混沌の中にある“白”
それを切り取った作品に、僕は“エンジェル”と名付けた。
いつかギャラリーを訪れた彼女に渡そうと、ラッピングして事務室の机の奥に潜ませておく。
そっと引き出しを閉じた時、ふと僕は自分が、以前までの自分じゃないことに気づいた。
沙彩ちゃんに“天使”と呼ばれていた僕。
あの頃の僕ならもしかしたら、久遠さんを飼い主と勘違いしてペットごっこをしていたかもしれない。
身体を撫でさせたり、流れる血を見せたり………あの頃、僕は自分の肉体をオモチャ程度にしか思ってなかった。
自分が思う以上に、周囲が“かわいい”とかチヤホヤしてくれるから、僕のことをそんなに気に入ってくれたのなら好きにさせてあげてもいいかな、なんて………自分のこと軽く扱っていたんだ。
今なら、そんな態度を真摯に叱った豪炎寺くんの気持ちがよくわかる。
そして―――――わからせてくれた彼に、すごく感謝している。
でも、感謝以上に膨らんでいく気持ちを、どうしたらいいのか困ってもいる。
兄弟ごっこをやめていた間は、豪炎寺くんが僕をリードしてくれたけど、今は兄役の僕が導いてあげなくちゃいけないのに――――。
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