15
「…………吹雪?」
身体は俺をきつく呑んで離さないのに、潤んだ瞳は俺を捉えようとしない。
―――何を考えている?
心がどこかへ逃げているんじゃないのか?
「………ぼくを……とじこめて」とうわ言のように繰り返す吹雪を、掴まえようと必死で抱きしめる。
「……や………それっ…………」
より深い密着を求めて体位を変えると、掻き混ざる音が体内に響くのを羞らう吹雪は、白い身体をしなやかに捩らせた。
「―――逃げるな。俺を感じろ」
細い腰を両手で掴まえて、背後からの長いストロークで吹雪の内側を擦る。
身体は至極正直なのに、心はまだ見えないままだ
「…………あつ………いよ………」
「そうだろう。求めあえばこうなるんだ」
うつ伏せに重なるように崩れ、耳元に囁く俺も“求め合う感覚”なんて知らない。
結合部の淫らな交接や、キスで混ざる唾液。
絡む肢体や握り合う手の汗ばんだ感触がもたらす、恍惚とした一体感も全てが初めてだった。
「はぁ…………はぁ…………」
横向きに寝そべり背後から抱き竦めるのが、今の吹雪には一番落ち着くみたいだ。
甘い喘ぎに誘われ律動を繰り返すうち、どんどん中へときつく搾り取られていく。
「ああっ……!」
「………くっ……」
吹雪が精を吐く切ない声を聴きながら、俺もせりあがる情欲を締めつけの奥へと放つ。
リズムの違う二つの鼓動が吹雪の体内で脈打ち、さめやらぬ熱はまだ溶け合ったままだ。
心は迷子だとしても、交わった肉体は確かに求めあい、今、絶頂を共有している――――。
「吹雪……愛してる」
「………ありがと……」
「っ……迷惑か?」
宙を見つめる灰碧の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれるから、慌てる。
「まさか……すごくうれしいよ……」
嬉しい………だけなのか?
お前の俺への気持ちはどうなんだ?
そこまで追及しなかったのは、涙が精一杯の答えに見えたからだ。
身体のほとぼりがさめてもとろけたままの吹雪を、バスルームに連れていって全身を洗う。
欲情にまみれた肌は、洗い流すとすぐに真っ白で清らかな新雪に戻った。
広いと言っていたバスタブは男二人で入ると狭かったが、吹雪は俺に身体をもたせかけ気持ち良さそうに目を閉じている。
限りなく愛しい存在を腕の中におさめた俺も、満たされていた。
「…………来てよかったね」
ふと、呟く吹雪に俺は頷く。
「そうだな」
やはり吹雪もこうなることを望んだのだ。
それがわかっただけでも、収穫だと思うしかない。
「おやすみ」
シンデレラ仕様のベッドの乱れたシーツを一枚捲って外し、洗いざらしの肌を横たえれば、ファンタジーの世界にまた逆戻りだ。
「…………ふふ。君、王子様みたい」
おやすみのキスを受けながら、吹雪は微笑んで目を閉じる。
吹雪の清らかな寝顔を見ながら、俺は吹雪との今日のやりとりを思い浮かべていた。
少なくとも、ファンタジーの世界つまり非日常の中でなら、吹雪は俺を躊躇なく受け入れる。
夢から醒めてもまだ心はどこかを浮遊していて、つかみどころがない。
だがその割に身体は正直すぎた。
一線を越え求めあった行為は、互いの身体に刻まれもう消すことはできない。
まるで魔法が解けても王子の元に残った“魔法のガラスの靴”のように―――
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