14
「シンデレラは………ガラスの靴をお城にわざと残していったのかも」
ホテルの部屋からの夜景に浮かぶシンデレラ城をみながら、吹雪がぽつりと呟く。
「…………何故そう思う?」
「きっと王子と離れるのが辛すぎて………脱げた靴を拾えなかったんだよ」
吹雪は城から目を離さずに言う。まるでその晩のシーンを今見つめているかのように――――
「なるほどな」
そういうことなら何となく納得がいく。
だが靴を残したのが故意かどうかは関係なく、あれは“運命”だと思う。
「………運命?」
吹雪は意外な言葉をきいた様に、俺に振り返る。
「魔法が解けても、落とした靴だけが消えずに王子の手の中に残ったのは何故だ?」
「え……っと……」
「愛する相手の再会を願う二人の強い気持ちが、奇跡を起こしたんだと、俺は思う」
吹雪を見ると、いつの間にか顔を真っ赤にしている。
「………やだな、修也くんたらそんな大真面目になっちゃって……」
俺が座るベッドの隣に、吹雪もちょこんと腰を下ろした。
窓の外に見える城も、この部屋の装飾もシンデレラ仕様で―――俺たちはまだ夢の余韻の中にいる。
「それにしても意外だなぁ。ディズニーランドにくるの、修也くんもはじめてだったなんて」
「そうなのか?」
「そうさ。君はかっこいいし優しいし……いかにもこういうデートをしてそうだもの」
「ないな。あってもお前限定だ」
「ふふ、なにそれ。ほんとかな?」
他愛なくつづく甘い会話。
ダブルベッドに腰掛ける二人の肩が、寄り添うように互いに傾いている。
非日常につけこんで、今夜はもう少し踏み込んでもいいだろうか―――?
「…………ゆっくりできるねぇ」
「ああ。何もすることがないのもいいものだな」
心地よくもて余す時間。
無防備に預けられた身体に腕をまわすと、びくりと離れようとするが、もう逃がさない。
「…………ぁ……ふ……」
口づけだけで震えだす身体を抱きしめてキスでなぞる。
「…………だ…………め……っ」
「感じやすいな………不感症は嘘だろ」
「違っ……これは……っ」
吹雪は唇を離して首を何度も横に振る。
「君がっ…………僕をヘンにするんじゃなぃ…かっ」
「フッ、俺のせいか」
仰け反る身体を捕まえて、耳朶や首筋を甘く吸う。
「…………んん………っ」
最初は押し戻そうとしていた腕が、しなやかに俺の背に回った。
「………きみの……カギ…………で…………」
服の中に滑り込ませた手のひらが、吹雪の薄い胸の鼓動の高鳴りを感じとる。
「ぼくを……閉じ込めて……」
返事の代わりに俺は片手で吹雪の身体を抱きしめ、もう片方の指先で胸元の小さな突起を探った。
「……やぁっ………それ………ヘンにな……るぅ……」
吹雪は首を横に振りながらも、俺の頭を胸元に押しつけるように抱え、浮いた腰をすりつけてくるから堪らない。
「よし、小休止だ…………風呂でも入って横になるか」
俺は大きく息を吐いて、欲望の熱とは相反する言葉を投げかけた。
不自然に止めた流れだが、頭を冷やすにはこうするしかない。
吹雪は頷いて「たまには先どうぞ」と小さな声で云った。
バスルームに自分を隔離して、高温のシャワーで身体の熱を紛らわす。
アイツは閉じ込められることを望むのか。
俺はむしろ抉じ開けたい。
アイツの抱える不安定さをさらけ出して、ひとつひとつ丁寧に愛したいのに。
二人の欲求が正反対に食い違ったまま、踏み込んでもいいのだろうか?
矛盾があるのは俺の頭と身体もだ。守りたいのに壊したい。
両極端な衝動が俺の中で反発し合いつつ共存している。
交代でバスルームに入った吹雪も、いつもより長く閉じ籠っていた。
ただ待っているだけの時間は狂おしいほど長い。欲しくてたまらない相手だから、尚更――――
「ふぅ……バスタブも大きくてキレイだったね」
「使ったのか?」
「うぅん、今はシャワーだけだけど……」
「ならあとで一緒に入ろう」
勿論“愛し合ったあとで”という意味だ。
すでに俺の腕は吹雪の身体を掴まえ、吹雪も頼りなげに身を任せている。
「……ん…………やぁっ……………」
カバーを剥ぎ取ったベッドに二つの身体が縺れこみ、くしゃくしゃのローブだけが床に落ちる。
「あ……………それっ…………だめ……っ」
濡れて勃ちあがる真っ白な性器を口に含んで弄ると、過敏なくらい反応するそれはまさに吹雪自身で。
「あっ………あぁっ………………」
可哀想なくらい素直にのぼりつめて、精を吐く。
その白濁で塗らした指を挿し入れた後ろの口は、柔らかいのに、吸いつくようにきつく絡んでくる。
「お前……ここ……自分で解したのか?」
頷くように瞼を下ろす表情の美しさに、ぞくりと背筋を奮わせながら、俺は蕩けた入口に猛る自身を呑ませた。
「うっ………あ………」
吹雪の狭いナカを圧し拡げながら増す密着感が、何ともいえない独占欲を充たす。
細い背が苦しげに仰けぞる反応に何度か腰を引くが、淫靡に擦れる結合部の熱が俺を離さず奥へと導いていく。
「っ……キツく……ないか?」
「…………ん…………はぁ………っ」
深く繋いだ身体を小刻みに揺らして内側の熱を共有する。
噛み締めた唇をキスでほどくと、薄い舌が夢中で絡んで応えてくる。
そのしぐさに俺は確信する。
吹雪もこの繋がりをもっと欲しがっているのだと―――。
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