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13

俺の二月の俺の予定を、何故吹雪が気にしたのか。

その“理由”を聞いた途端、謎が解けた。
美術室での一件のモヤモヤも全て――――


「修也くんと二人で……ディズニーランドに行きたいんだ」と、吹雪は突拍子もなく言った。

「……ディズニーランド?」
俺は聞き返すだけで、それ以上は追及できない。
恥ずかしさに目を潤ませ、頬を桃色にそめる吹雪がけなげすぎるから。

「………僕の友達がね、懸賞で“東京ディズニーランドホテル宿泊券“を当てて………行く相手がいないからって、僕が貰うことになっちゃって……」
吹雪は困ったように長い睫毛を伏せる。
「……でも、ちょっと行ってみたいなって思ってさ。チケット代や交通費はバイトで稼ぐから……」

「まさかお前、美術部の件もそれで……」

「……そうだよ……」
吹雪は気まずそうに頷いた。
「短期バイト探してた時にタイミングよく声をかけられてさ。内容は引くけど、君の先輩からの頼みだったし……家をあまり空けずに稼げるのが良いなって……」

「…………」
俺は胸を突かれた。

吹雪が普段家事優先にして、バイトなどを基本的に控えているのは知っていた。
学費には育英資金を充て、最低限の生活費と小遣いも自力でやりくりしているにもかかわらずだ。

俺は吹雪の養育も含めた家全体の生活費を父から任されているから、大抵の必要なものは家計から捻出できた。
それに娯楽に関しては、費やす時間も相手もいなくて。
だから吹雪のような、やりくりの苦労なんて味わったことがない。

「……ごめんね。見境なくて」

「いや。理由を聞いたら責められないな」

本心から出た言葉だが、険しい顔で口にするから何の慰めにもならない。

「……気休めはよしてよ。君、まだすごく怒ってるじゃないか」

「怒ってはいない。それに俺の機嫌の問題じゃないだろう?」

少なくとも俺の中で今燃えてるのは怒りじゃなく嫉妬だ。
それに俺の顔色より、お前自身はどうなんだ?
小遣い稼ぎのためなら知らない男と裸で絡むのか?

「これからは、お前がバイトと家事の掛け持ちで困ったら、まず俺に相談しろ。協力するから」

思い出しただけで煮えくり返る気持ちを抑えて、俺は奇麗事を並べる。

「…………ありがとう。そうするよ」

会話上はきれいに解決していくのに、俺の機嫌は一向に好転しないから、吹雪もしおらしいままだ。

吹雪に気を遣わせて悪いが、この感情は燻ったままだ。
あのデッサン風景を振り払おうとしても、脳裏にちらついて煩い。
取り巻いていた女子たちはまだしも、後ろでにやけていた兼持や、裸で絡む相手役の男に対するどす黒い感情。
していたのは本当にモデルだけで、セクハラなどは無かったと聞いたって、収まらないのだ。


「……………で、どうかな?君、二月は忙しい?」

気まずい空気の中、消え入りそうな声で吹雪がもう一度切り出した。
他人の顔色を優先しがちな吹雪にしては、珍しい言動だ。

「…………それはどういう誘いだ?」

「……どういう、って……」

「デートの誘いなら喜んで乗るが、まさか弟のおもりのつもりじゃないだろうな?」

「っ……どっちもちが……うけどっ……」

意地悪したつもりはないのだが、吹雪は気の毒なくらい真っ赤になって大袈裟に首を横に振る。
そして驚く言葉を口にした。

「………たまには君と………違う場所に二人で泊まるのもいいかなって……」

「っ……」

完敗だった。
“デートの誘いか”とふっかけたつもりが、数倍刺激的な切り返しに今度はこっちが赤くなる番だ。

「…………わかった。なら調整しよう。なるべく早めにな」

熱い鼓動に押し潰された声で、俺は答える。

“しがらみを逃れ、誰にも届かない場所で君と抱きあいたい”と言われたようなものだ。
拡大解釈も甚だしいが、俺の本能は吹雪の言葉をそう受け止めて疼いた。


そして二月の一週目。

早急にディズニーランド行きは実現した。

そこに至るまでの半月間、互いに平静を装いつづけながら、毎日どこか浮き足立っていた。

当日なんかはもっと夢見心地で………
二人にとって最高の非日常を満喫した。

吹雪の愛らしさ全開の笑顔や、人目を気にせず俺に甘える仕草とか。
吹雪の白い指は、組むように結ばれた俺の指の間が定位置で。
心地よい甘さで鼓膜を撫でる会話や、とろけるように見上げてくる瞳に、俺は魔法にかかったように虜になった。

初めて見る“吹雪らしさ”を五感に焼きつけておこう。
ここでの夢から醒めても、いつでも俺の腕の中で“らしさ”を取り戻せるように――――

 
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