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7

ホテルに戻った後も、豪炎寺の悶々とした気持ちは収まらない。
要因は様々だが、そのほとんどが吹雪士郎に関わることだ。

『あ、そうだ。知ってる?この部屋には素敵な露天風呂がついてるんだよ』

風呂にでも入って気分転換を、とドアに手を掛けた瞬間―――昨日の士郎とのやりとりが鮮明に脳裏に甦る。

『天然の良い湯だから入っておいでよ。ひとまずほら……いこっ♪』

士郎が自分の上着を引っ張り上げたとき、チラリと一瞬見えた腹部。
厚みのないしなやかなボディラインと、真っ白で極め細やかな肌…………
クソッ、何考えてるんだ俺は。

着替えを放り出したベッドに仰向けに倒れこむと、頭上でLINEの着信音が鳴る。
ヘッドボードから手探りで取った携帯を天井にかざして画面を開くと『明日には戻る』と、染岡からだった。

続けて、またLINEの着信。
まだ何かあるのかと思いきや……今度は士郎からだった。

『こんばんは。何してる?』

いや、待てよ。
何をしてると訊いてくる以前に、何故コイツが俺のLINEを知ってるんだ?
そう考えてる間にまたトークが飛び込む。

『驚いた?君の連絡先、染岡くんから聞き出しちゃったんだ』

高揚に一瞬膨らんだ胸が、今度は突き上げる苛立ちに押し潰される。
士郎と出会って以来、フィールドを離れても、プレイのときも、それ以外のちょっとしたやりとりだって……自分の五感はどんなときも、士郎のすべてを追いかけている。
二人の間に第三者の介在を1ミリも許せないほどに。

『ごめん』

『気を悪くしたかな』

ぽつりぽつりと入る、一方通行のトーク。
返答に困った挙げ句、豪炎寺は思い切って通話ボタンをタップする。

「……あ」
士郎の書きかけのトーク画面に割り込んだ、通話の着信。登録したばかりの“豪炎寺くん”の文字が胸を揺らす。
なぜか震える指先で繋いだ途端、飛び込んだ彼の声はすこし切羽詰まっていて……

『違うんだ、士郎』

「え……あの、こんばんは」

『ああ、こんばんは』

一対一の通話で名前を呼ばれると、なんだか照れる。
そして相手が大きく息を吐く気配に思わず姿勢を正した。

『すまない』

「え……?」
真っ直ぐな謝罪に戸惑う士郎に、豪炎寺の言葉が続く。
『返事を……どう書こうか悩んでいたんだ』と。

「……どういうこと?」

僕、なにか返事に困ること訊いたっけ?
士郎が心中でひとりごちたとき、意外な答えが返ってくる。

『ずっと、お前のことを考えていた』

「…………え?」

『……なんて云われたら、困るだろう?』

「ん……と、困ら……ない……けど……」

少しパニックしていた。

本音だけど、ちょっと嘘。
嬉しいけど……やっぱり困る。

今すぐ会いたくなってしまうから。

ああ、でもそれも正しくない。

こうやって君の声を聞く前から…………ほんとは会いたかった。

昼間も顔を合わせてたのに、こんな夜にまた会いたいなんて、伝えたら引くよね?
だからせめて……LINEの連絡先を入手して、トークを送ってしまったんだ。
短い言葉のやりとりでいいから、せめて君と繋がりたくて。

「あのさ、明日も……来てくれるよね?」

だいぶ間があって『ああ』と返ってくる。

士郎の、熱を持った切ない胸がすこし安堵した。

「いつまで……いてくれる?」

また長い沈黙のあとで、事務的な返事がかえる。

『協会からの連絡待ちだが、おそらく明日の便で帰る』

「明後日に……なればいいのに」
できればもっと先……でもそれは無理だ。
使命に忠実な彼に、情で訴えても効き目がないのはわかってる。
消え入りそうな本音に士郎は「おやすみ」とかぶせた。

『おやすみ』と返る、熱を帯びた声。

「ねぇ……僕とのLINEは嫌じゃない?」

『ああ、全く嫌じゃない』

優しく細められる彼の切れ長の目の深い色が、目を閉じると心地よく思い浮かぶ。

通話が切れた携帯を胸に当て、ぼんやりとベッドに座ったまま―――頬が濡れているのに気づいて、自分のきもちが今にもぷつんと切れてしまいそうに心細くなっていることに気づく。

もうすぐ決勝トーナメントがはじまるというのに、こんなに弱くなってしまって、僕は大丈夫なのかな―――?


ガチャ、とドアノブが回る音。

慌てて頬を拭い、起き上がる士郎。

「お前今、誰かと話してなかった?」

風呂上がりのアツヤが通りがかりに士郎の部屋に寄る、よくある吹雪家の光景。

「ううん。話してしてないよ……おやすみっ!」

電気を消してベッドに潜り込む士郎の反応に、アツヤは首を傾げた。

いつもとどこか違う雰囲気を、なんとなく感じとりながら―――




 
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