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5

まさかとは思ったけど―――
アツヤの言う通り、豪炎寺くんは僕のこと意識しているかもしれない―――

朝食を慌てて食べるアツヤを待つ士郎は、すでに支度の済んだ荷物を玄関に並べ、テーブルの向かい側に腰かけている。
吹雪家のいつもの朝の光景。
一つだけ違うのは、いつもなら行儀よく座っている士郎が、今朝はテーブルにぼんやりと頬杖をついていることだ。

「……アニキさ、豪炎寺が帰ろうとしてんのを引き留めたってホントか?」

「え……」
士郎は丸い目でアツヤを見る。
「あ、うん。彼は白恋にとって、まだ利用価値があるからね」

「はあ?ねーよ。お前バッカじゃね?」
ミニトマトに勢いよくフォークを突き立てながらアツヤが士郎をガン見する。

「何で?決勝トーナメントに向けて、僕らが本気をぶつけられる選手がいた方が、練習の効果が大きいし」
「そんなん染岡でも十分だろ」
よそ見したせいで刺しそこねたトマトを指で摘まんで口に放り込みながら、アツヤは言い捨てた。

「染岡くんは……いないじゃないか」
反論する士郎の声は小さくなり、勘ぐるような視線から逃げるように目をそらす。

たしかに……染岡も手加減不要の相手には違いない。
でも、豪炎寺みたいな“怖さ”までは正直感じなかった。
本番さながらの怖さから沸き出るゾクゾク感……それが士郎にはたまらないのだ。
アツヤだってああは言いながら、似たような感覚をもってるはずなのに……

「あ゙〜っ、わっかんね〜〜!」

「何が?」

「ぶっちゃけお前、気持ち悪くねーの?」

「気持ち……悪い?」

「……あのさ」
アツヤが呆れたような顔をして、それから険しい顔になって士郎を覗きこんだ。
「お前……マジ気をつけろよ」

「??」

「ぜってーおかしい。だってテメーの裸に発情するような男、フツーにキモいだろ?それを引き留めるとかありえねーから!」

「はっ……!?」
発情なんかしてないでしょ!!
真っ赤になってそう言い返す士郎を、アツヤは益々不審に思う。
気にするとこは、そこじゃない……と。

ここへ来た時から、豪炎寺の視線は士郎に釘付けで、見ているこっちが恥ずかしいくらいだ。
ずっと解せないのは、それ自体を士郎が違和感なく受け入れていること。
他人の視線に人一倍敏感な兄なのに―――その“異変”になんだか妙にアツヤの胸が騒ぐのだ。


『おぅ、豪炎寺。お前には悪いけどよ、俺がなえの特訓に付き合ってる間だけ、白恋の委員……頼めねぇか?』

同じ朝。
SHIRATOYA RESORT周辺のランニングを終えて部屋に戻った豪炎寺に、染岡から電話が入る。

「一体どんな特訓なんだ?それはお前がチームを放置してまで本当に必要なものなのか?」

『っ……それはだな……』

煮え切らず途切れる答えに、その申し出が染岡自身の意思ではないことを、豪炎寺はすぐに察した。

「誰かの指示なのか?」

図星だったのだろう。
ウッと言葉を詰まらせてから『それは言えねぇよ。口止めされてっから』と返ってくる。

正直すぎるその答えを聞いた豪炎寺は、眉間に皺を寄せ盛大なため息をついた。
染岡はビビってるんじゃなく、困っている様子だ。
つまり背後には大人じゃなく友人あたりがいるのだろう。
誰なのかは、だいたい想像がつく。
昨日俺をここへ引き留めた……アイツしかいない。


「ふぅん……君、染岡くんの頼みなら聞くんだね」
アップが済んだ白恋のベンチに現れた豪炎寺を見つけた士郎がさっそく絡んでくる。

「そういう訳じゃない」
「ガチガチの信頼関係、ちょっと妬けるなあ」
豪炎寺は甘酸っぱく絡む士郎の上目遣いから顔をそらすように横を向き、ウインドブレーカーを脱いだ。

「だいたいお前こそ…」
「え、何?」

「……いや、もういい」

士郎を残してグラウンドに駆けだす豪炎寺が不機嫌そうなのには、理由があった。

強化委員としての任務を第一に考え、安易に他校と関わるべきではないという豪炎寺の考えを、染岡が知らない筈がない。
そんな染岡が、士郎の側について自分を引き留めてきたのが、腹立たしいのだ。
染岡も士郎にほだされたのか?
昨日の自分みたいに……?
そんな疚しい憶測もフクザツに絡まって……

「何だよ……気になるじゃないか」
片や豪炎寺の背中を見送り、つまらなそうにひとりごちる士郎。

士郎が“妬ける”と言ったのも本音だった。

『木戸川清修強化委員の豪炎寺を、白恋に引き留めるのは絶対無理だ』

自分の頼みを、最初は頑なに拒んだ染岡。

『でもそれは立場上の話でしょ?そうは言っても彼……昨日は僕らとやれてとても楽しそうだったけど?』

そう伝えた時、電話の向こうの染岡の心が揺れたのがわかった。

『フットボールフロンティアでの彼の戦いは、実に任務に忠実だったよね。木戸川清修の17番に冷静に徹して……雷門の10番として存分に爆発した去年の彼とは明らかに違ってた』

電話の向こうで息を呑む染岡は、士郎の的確な“読み”に完全に心動かされたのだ。

『彼……ある意味欲求不満だと思うよ。ここに残るなら、僕が練習がてら相手して、解消してあげてもいいけど?』

そういうことなら……と士郎の話に乗った染岡の、仲間思いの気持ち。
豪炎寺はそれを知るよしもない。

 
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