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3

「おい、アイツ……気をつけろよ」
「……え?誰のこと?」
「豪炎寺だよ。今お前の裸エロい目でみてたぜ」
「……はぁ!?」

次のゲーム展開を組み立てていたのだろう。
アツヤの忠告に一瞬驚いた士郎だったが、すぐにキリッとした表情に戻る。
紅白戦のハーフタイムは短い。

「このゲーム、後半も僕からパスはいかないと思ってて」
「は?どういうことだよ?」
アツヤが顔をしかめるが、士郎の表情は真剣だ。
「僕は厳しくマークされてる。出ようとして消耗するよりも、さがって珠香ちゃん紺子ちゃんを代わりに前に出すから……アツヤは彼女たちと攻撃を組み立ててほしい」

「……ああ、いいぜ」
頷くものの、アツヤは正直戸惑う。
兄を視野に入れないサッカーなど、今まで考えたことがなかったからだ。


「―――アツヤ!僕に構うな!」

後半開始早々、ディフェンスラインで氷上のボールを奪った士郎が、紺子にパスを送りながら叫んだ。

それは示しあわせていたかのように的確に、紺子の中継でアツヤの真正面に来て―――

「っ……必殺、クマゴロシ……斬!!」

動けない雪野の真横を抜けたボールが、勢いよくゴールネットに刺さった。

突如として開かれた白恋サッカーの新たなページ―――だが、ひと皮剥けたはずのエースストライカーは、実感なく佇んでいた。

ディフェンスラインの士郎の横で、豪炎寺が口角を吊り上げその様子を見ている。


後半10分過ぎた頃、同じようなパス回しで二点目が入った。

失点が続いてもシフトを変えない相手との攻防に飽きてきたアツヤが、チラチラとからかうような視線を豪炎寺に向けはじめる―――また悪い癖が頭をもたげてきたらしい。

「なあ……アンタ、勝つ気あんの?」
士郎との間に割り込み豪炎寺の横に並んだアツヤが、もう一度訊く。
「……てかさ、相当アニキのこと気に入ってんだな?」
ククッ……と豪炎寺の耳元で忍び笑いが漏れる。
「ゲーム捨ててまで、ずっとつけ回すなんて……ストーカーかよ」

「…………」
豪炎寺が立ち止まり、つられてアツヤもブレーキをかける。

「言っておくが、ゲームを捨てたつもりはない」

士郎のマークを外して、豪炎寺が走り出したのは、狙うはずのゴールとは逆方向だ。

「喜多海!」

まずい……と小さく呟いた士郎が豪炎寺を追う。
この逆走はキーパーから喜多海からのミドルパスを、確実に捉えるため―――

「みんなっ!ゴールを守れっ!」

迷いないシュートへの動きを察した士郎は、叫ぶように指示を出しながら夢中でチェイスをかけた。
だがパスが来た瞬間、すでに豪炎寺の体勢は整っていて。
これは、テレビなどのメディアで何度も目にした構えだ。
「くっ……」
宙高く蹴りあげられたボールを見上げて士郎は悔しげに下唇を噛んだ。

「ファイア トルネード!」

パスを出した喜多海、追いかけてきた士郎、そして動けないままのメンバー全員が見守るなか、炎を纏った長い軌道がゴールに吸い込まれていく。
噂以上の威力だ―――。


「アツヤ。調子に乗ってきた時に相手を煽る癖、やめた方がいいよ」

試合には勝ったし、たかが紅白戦だ。
なのに、ベンチに引き上げるアツヤの横を通りすぎていく士郎の言葉は、つららの先っぽみたいに鋭い。

「ちぇ〜、一点獲られたくらいでカリカリすんなっつーの!」
無邪気に頬を膨らますアツヤは気に留めていないけれど、士郎がカリカリするなんて、とても珍しいことだった。

「一点も獲らせないようにしよう、って約束したのにさ」
「仕方ねーだろ。相手が相手だ」
「………っ」
士郎はまた唇を噛んだ。

隙をつかれてシュートを許したのに……味方側にさえ流れる納得感が許せないのだ。
豪炎寺は強化委員でしかも助っ人だ。
そんなよそ者に自分のチームをいいように掻き回された気がして苛つく。

そしてそんなふうにペースを乱されている“らしくない自分”をリセットしたくて、真っ先にシャワーを浴びにいく。


「ふぅ……」
さっぱりしてロッカーに戻ると、スマホのイルミが点滅していた。
染岡からの着信だ。

「もしもし…」

『お、士郎か。今日はどうだった?』

「……どう……って……」

いつもよりぐんと自信タップリの染岡の声。もう助っ人から色々聞いて紅白戦でのできごとを知っているのだろう。

「あー…僕から見ても彼はいい仕事をしたと思うよ。アツヤの新境地を開いてくれたし、つけあがればすかさずお灸を据えて……あとは何かな?チームも引き締まったし、僕はやり込められるし……」
話しているうちに士郎の綺麗な眉間に似合わない深いシワが寄っている。

『ほぉ〜、さすが豪炎寺。完璧な仕事ぶりだな。で、お前までやり込められたのか?そこまでは知らなかったが……』
「ハッ……!」

ごめん、ちょっと急ぎの用を思い出して……と士郎は慌てて電話を切った。

何か失言した感満載だったし、それに……
本当に大事な用に気づいたからだ。


 
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