×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

2

白恋中のグラウンドで豪炎寺が目にした光景は、一風変わった紅白戦の模様だった。

吹雪兄弟VS他メンバーの対戦。
DFとMFが3人ずつ、三年のFWも2人いる赤が、白の吹雪兄弟に翻弄されてスコアは10対0。キーパーのいない白が無失点で、二人のストライカーがポジションの揃った9人相手に10点を奪っているという展開だったのだ。

“とにかくこいつを徹底的にマークして欲しい”
そう頼まれたターゲットは、あのキャプテンマークをつけた……吹雪士郎だ。
送られてきた画像だけでも流麗な身のこなしは想像できたが、実際に見るとなおさら目を惹きつけた。
弟の派手な動きの傍らで一見控えめだが、プレイ自体が華麗でスピードもある。
早く対峙したくて、豪炎寺は思わず身を乗り出していた。

「―――ではそろそろ君も入って、もう一度始めましょうか」
既に白恋のユニフォームを身につけベンチで前のめりになっている豪炎寺に、白兎屋監督が言う。

「メンバーも選手たちで決めてくださいね」
豪炎寺にメンバー表を手渡した白兎屋は、細い目をさらに細めて愉しげに言った。


「……プッ、アイツもやっぱ似合わね〜」
白恋ユニはガングロの奴が着ちゃダメだよな〜と、アツヤはニヤニヤしながら士郎に耳打ちする。
士郎はそれには答えずアツヤとすれ違い、集合がかかったベンチへと歩いていく。
口元を固く結んだ士郎の横顔を、不思議そうに視線で追いながら、アツヤも後に続いた。

「さて、今日最後の紅白戦は、白組・吹雪士郎くん、赤組は今日から参加の豪炎寺くんにキャプテンを務めてもらいます。メンバーはキャプテン同士で選ぶこと」
白兎屋はそれだけ伝えると「決まり次第、始めてくださいね」と、悠々とベンチに下がって傍観者のように腰掛けた。


「誰をメンバーに欲しいか、お互いに意見する形でいいか?」

「いいよ。僕はアツヤがいいな。あとはお好きにどうぞ」
人当たりのいい笑顔を作る士郎。
「……そうか……」
対して豪炎寺は、真顔で応える。
「じゃあ俺は……FWの氷上と喜多海。それと雪野、今回はキーパーを頼めるか?」

「え……俺が……ですか?」
「ああ、頼む」
豪炎寺と目が合った雪野は、呑まれたように首を縦に振る。
名を呼ばれた氷上と喜多海も、すでに姿勢を正して豪炎寺の方を向いていた。

「じゃあ、こっちのGKは函田くんだね。あとは……DFに珠香ちゃん、MFに紺子ちゃん、僕らのチームはこれでいいよ」

「よし、メンバー決定だな。このあと5分だけ、チーム内で作戦の時間を貰えるだろうか」

「……え? ああ……もちろんいいけど」
たかが紅白戦なのに……真剣味がありすぎて調子が狂う。
士郎は少し首をかしげながら承諾した。

「赤のメンバーは、こっちへ集まってくれ」
「ハイ!」
豪炎寺の声に弾かれるように、DFの押矢と目深、MFの居屋と空野を加えた7人が歩み出た。

いつもは自然体な白恋メンバーのスイッチが、戦闘モードに入った気がして―――
円陣を組み、真剣な顔を寄せあう赤のメンバーの背中を見ながら、士郎は自分のなかにも心地よい緊張感が張り詰めていくのがわかった。


5分過ぎると、グラウンド上にはきっちり赤側の陣形が組まれていた。

「へ〜、アイツFWじゃないのかよ」
2トップの氷上、喜多海の下に立つ豪炎寺を見て、アツヤはせせら笑うが、士郎に笑顔はない。

「アツヤ、一点も獲らせないようにしよう。僕らの意地にかけて」
はじめて聞く兄の声色に、少し驚いて振り向いた直後、ホイッスルが鳴る。
キックオフしたボールをすぐさま奪い取ったアツヤを、フォローして走り出す兄……その動きのどこかにいつもと違う“警戒心”を読み取ったアツヤは、神妙な足捌きでドリブルを運んだ。


本当に、これがチーム内の紅白戦なのだろうか。

切迫するやりとりの末に、両軍とも点が取れないまま前半が終わった。

「―――畜生!」
アツヤは水分補給しながら、ベンチを蹴り上げる。

ムシャクシャする。点取り屋のはずの豪炎寺がシュートを全く仕掛けてこないなんて。
そればかりか、士郎にパスが出せないのだ。
士郎を探すアツヤの視界には、常に豪炎寺がいた。
守備に長けた選手という訳じゃない。
でも、こっちがジャンプの高さや動きの速さを駆使してかわそうにも、ずば抜けた突破力と場数を踏んだ臨機応変さで巧妙にカットされ、氷上や喜多海にチャンスボールが渡るのだ。

逆に自分の攻撃は、士郎が封じられるとこんなにもシュートの威力が落ちてしまうものなのか。
士郎も隙あらば自らの右足でゴールを狙うが、豪炎寺の徹底マークに調子を狂わされる。

かなりストレスを溜めているんじゃないかと、アツヤは兄の方を見る………

「珍しいな、着替えかよ?いつも涼しい顔してんのに」

「っ……仕方ないでしょ」
脱いだユニで汗を拭いながら、士郎が苛立つようにそっぽを向く。
「たまんないよ。あんなしつこくされたの初めてさ」
「…………」
アニキが感情を露わにするなんて、面白いな。
士郎の真っ白な背中に目をやりながら……ふとアツヤは気づく。
同じ方向に釘付けのように注がれる、自分以外の熱い視線があることに―――。

 
clap
→contents
→ares
→top