おまけ
(SHIRATOYA RESORTにお泊まりした豪吹・豪炎寺視点)
気になって仕方ないのに、あえて向けた背中。
「おやすみ」
鼻にかかった声が囁き、ぬくもりが忍び込むように寄り添う。
「……おい、あまりくっつくな」
正直今の俺は、直ぐに士郎に突入できるほど肉体的にスタンバイしていて、危険だった。
「ぬくもり、伝わるでしょ?」
頬を擦り寄せ訊いてくる士郎。
俺を安らかな眠りに誘うつもりなのだろうが、完全に逆効果だ。
「…………」
言葉を発するだけで零れそうなほど、欲望が身体中に滾る。だから黙る。
すると反動のように、抱きしめたい衝動がこみ上げて―――背中から回されていた白い手をぐっと掴んでしまう。
一瞬息を詰め身を竦める士郎。
だが嫌がる気配はない。
むしろ俺の背に預けた身体はとろけるように密着度を増し……甘いため息みたいな欠伸が漏れきこえてくる。
可愛いな―――。
衣服を通して接する肌と肌に通うぬくもり。
俺の全神経が、そこから伝わる士郎に心地よく引き寄せられている。
寝息とともに上下する胸の動きを感じながら、握っていた手に唇を押しあてて。
滑らかな感触に堪えきれなくなった俺は、意を決して振り返った。
今なら……誘うような上目遣いに惑わされることもなく、好きなだけ士郎を眺められる。
何もしない。見るだけだ、と。
外で舞い積もる雪が、音を吸収するのだろうか。
身じろぎだけで士郎の眠りを遮らないかと気遣うほど静かな室内で、士郎の顔立ちと肢体をじっと見つめる。
照明を落としていても、どこをとっても綺麗で。
見惚れながら“好みの容姿”とはまさにこのことをいうのだと実感する。
そして……触り心地がよさそうな肌は、どうしても美味そうに見えて困る。
握っていた手をほどいて撫でた髪の、柔らかさに驚く。
そのまま両腕で包んだ士郎は、なんともいえない良い香りがした。
「士郎……」
抱く腕に呼応して吸いつくように馴染む身体が愛しくて、思わず名を耳元で零す。
耳朶を口に含み頬を唇で撫でながら「すきだ」と囁くと、夢でも見ているのか、士郎がじゃれるように擦り寄ってくる。
「……ふふ……きもちい……」
「……ああ、俺もだ」
寝言ともつかない士郎の呟きに答えた瞬間―――気持ちが繋がりあった感覚が心を満たした。
もう一度強く抱きしめて、ラベンダー色の柔らかい髪の生え際に口づけると、冴えた瞼がようやく降りた。
気づいたらすでに明るい部屋。
目を開けず、士郎が会話する声を聴いている。
「――もしもし。あ、はい――――ええっ!?い、今!?」
家族の車に乗るアツヤの怒鳴り声。
士郎の着替えを積んで、もうこっちに向かっているようだ。
雪は……消えたのか
会話を聞きながら思う
もう発たなければいけない時間なのだろう。
頭で明確に理解しながら、身体は士郎のあの心地よい感触を求め欲望が沸き上がってくる。
「豪炎寺くん。僕もう行かなくちゃ……」
慌てて支度を始める士郎の声が近づいてくる。
「ひゃっ……!」
別れを告げようとベッドを覗いた瞬間、掴まえて閉じ込めた腕の中。
眩しいくらいに白い肌を、キスで埋めていく。
「あっ………やっ……」
首筋や耳まで唇で撫でまわし、衣服の中の滑らかな肌を掌で味わう。
「そ……なとこっ……ひゃ…ぅん……」
胸元の尖りを指先が探り当てると、敏感に仰け反る反応が堪らなく可愛くて。
「……また……会えるかな?」
くしゃくしゃになった髪や服を気にしながら、士郎はベッドの端まで這うように抜け出して、涙目で振り向いて訊く。
「勿論だ。俺とつきあってほしい」
服の乱れを直してる士郎の背中を抱きしめて。俺は声の上擦りを誤魔化すように、白いうなじに口づけた。
「……あぁっ……も……だめぇ……」
首筋を這う舌に震える身を捩り、絡む腕から身体を引き剥がして士郎はベッドから立ち上がる。
「カラダが……ヘンになっちゃうから……っ」
股間を庇うように手をやり羞じらう士郎の仕草に、俺の欲望も脈を打ち込み上げる。
そろそろ限界だ。
辛うじてコントロールがきくうちに、士郎を帰さなければ。
「すまない」
「いいよ。また……別のとき……もっとしよ」
っ―――いいのか?
頬を紅潮させながら零した士郎の言葉が、名残惜しげに聞こえて、俺は内心酷く動揺する。
「大会、観に行くからな」
「うん。楽しんでくるね」
何とか平静を保ったまま、互いにぎこちなく別れた。
疼く身体をもてあましたままでは、見送りに立ち上がるのも憚られて。
士郎が出ていくドアの閉まる音を、ベッドで聞いた。
次に会う時にはもう、容赦はしない。
そう心に決めながら――――。
おまけ*完
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