マッチ売りの少年 | ナノ
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「sp04、すまなかったな」

「イエ、私ハ 貴方様ノ 初恋ノ 瞬間ヲ 計測デキタダケデ 幸セデスカラ…」

「お前……」

LM-spというのは、ライフマネージャーと呼ばれる人型ロボットだ。

干宮路首相は、各分野のナショナル・スペシャリストのエース1人につき、このロボットを一体、生活管理役として設置している。

付けられた身としては、話し相手にもなるし身の回りの世話をしてくれるのはいいが、自分の体内表皮に埋めまれたチップが発する情報を24時間365日どこにいてもLM-spに把握され、位置や体温・脈拍数などを“監視"されている。
まさに徹底管理されていてうんざりもした。


「最後ニ……ヒトツ オ訊キシテモ?」

「…何だ?」

「昨晩…X'masノ失踪中ノ 貴方ノ コノ 脈拍ノ 上昇ノ継続ハ…想イ人ト 会ワレタノデスカ?」

「………ああ」

「…!!!……デハ、コノ 体温ト脈拍ノ更ナル急上昇ノ瞬間ハ……マサカ………キス?!」

「……………そうだ」

俺専用の『sp04』は優れたロボットだ。機転も行動力も分析力も凄くて、おまけに思慮深い。

9才でここへ来た時からずっと、それこそ片時も離れず側にいた。

だが、私用での外出を原則禁じられている俺はクリスマスの晩に吹雪と会う時間を作るためにsp04の監視システム連携を一定期間狂わせるバグを仕込み、数時間のあいだリアルタイムな俺の監視が出来ないようにした上で脱出を図ったのだ。

そのことが首相を激怒させ、LM-spの制御に手を加えるなど言語道断―――と、俺用のLM-spを、管理レベルをMAXに強化した新タイプのメカに入れ換えろとの命令が下った。

つまり、それは
sp04との………別れということ。



---------bye---------



視覚を司るセンサーやカメラを備え、かつ感情を表す電光を放つゴーグルのようなモニターに、無機質に流れていく別れの文字。

"人"の別れだって似たようなものだ。

哀しみや寂しさの深さに関わらず、去る者は去るべき時に あっけなく去りゆく。
それは互いの意志ではどうにもならない運命。

ならば、せめて自分の手でスイッチをオフにした。

そして、リサイクルマシンにかけるフリをしてクローゼットの奥に眠らせておく。

愛着がないと言えば嘘になる。

5年間の成長期を共にした、一番身近な『人格』だったのだから……。



入れ代わりに設置されたのが『sp05』。

こいつは刑務所看守ロボッ卜を機能強化したというコワモテなヤツで、頭脳明晰・冷静沈着。マネジメントの徹底振りは勿論のこと、カスタマイズなどもってのほかだった。

本部に全て統制され、権限のない者が制御プログラムにアクセスしようものなら、警報器が作動するときている。

しかも、丸っこくて愛嬌があったsp04とは似ても似つかぬ厳つい外観は、対面した俺の眉間に皺を寄せ深いため息をつかせた。


想いの強さとは、何だろう―――?

例えばサッカーなら。
フィールド上の運命を、想いの強さが覆す奇跡が起きることもあるというのに。

これから俺が生きていく中で、どうしても欲しいものを……どうやって引き寄せたらいいのだろうか。


そんな苦悩とは裏腹に運命はどんどん不本意な方へ俺を導こうとする。




年が明けた。

それは、仕事始めの晩のことだった。



寝ようとしていると、部屋のドアをノックする音がして。
開けるとそこにはハーフっぽい顔立ちの女が立っていて驚く。
こんな時間に前触れもなくたった一人で?

「お前は誰だ?」

表情を固くして訊く俺の睨むような視線をものともせずに女は妖艶に微笑んで答えた。
「はい、私はカレン。あなたのお義父様からの言いつけで参りました」


「お昼間の厳しい訓練でお体も火照っておいででしょうから……マッサージをしてさしあげますわ」
「断る」
カレンがドアの隙間から部屋に上がり込もうとするのを俺は体で遮った。

「あの……」

そのままドアを閉めて、鍵をかけた。


「今ノハ賢イ貴方ラシクナイ選択ダ。連レ戻シテ今スグ女ヲ抱ケ」

「必要ない。余計なお世話だ」

「イツカハ ヤル羽目ニナルンダ、愉シメ」
「っ………黙れ!」

俺の荒げた声に、
高圧的で動じないsp05が初めて口をつぐんだ。


ベットに壁向きに横になり……ドクンドクンと嫌な感じに脈打つ鼓動をはね除けるように、脳裏に浮かんで消えない吹雪の面影を抱きしめるように
俺は目を閉じた。


その女が何をしに遣わされて来たのかは朧気に理解している。

だからこそ、吹雪に
夢でもいい、会いたい。

今すぐ吹雪の元へ飛んでいき、
抱きしめて思いをもう一度伝えて……
もて余している俺の熱を吹雪の……あのいつもどこか震えているようなあの華奢な身体の中に埋めたい。

俺はその日一晩中
そんな浅ましい衝動と戦い続けたのだった。




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