3
「結納………?」
ある春の晩に彼が発した歯切れの悪い言葉の意味を全て僕は理解し、覚悟しているつもりだ。
「いよいよなんだね…………でも、いいんじゃない?」
強がって微笑んで……僕はとろ火にしたコンロの火を一旦消した。
きっと今夜も彼は病んでいる。
深く……長い行為を求められるに違いない、と思ったからだ。
「僕は平気さ。おつとめを続けられるならね」
「…………」
僕は、眉間に深い皺を刻みべッドに腰かけている豪炎寺くんの前に歩み寄り、ニッコリ笑って自分の着衣を床に落とした。
「僕、今よりもっと頑張るから………」
そう言いながら彼の体を優しく撫でるようにガウンを脱がせて「ねぇ…気持ちいいとこ…教えて」と囁きながら下半身に顔を埋める。
「チュ………も………すご………」
尋常じゃない緊張感の中に曝されてるから性欲が溜まるのだろうか。
君は今夜も僕を求めてすでに昂った状態で。
「くっ………挿れたい」
少し吸い付いただけでビクンと反応を示すソレは、飢えた野性そのままに僕のナカに圧し入ってきてすぐさま貪るように動きはじめる。
「あっ………ぁあっ………だめ………い…く………」
「……吹雪…っ」
豪炎寺くんはトドメを差すように悦い角度で僕を貫き……僕の粗相を見届けてから自分も欲望を放った。
「……ごめんなさい……」
「そんなにカンじてるのか?」
「ん……いつも抜いてるのに……繋がるとまた……」
「フッ……じゃあ仕方がないな」
豪炎寺くんは目を細めて僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「まだ………このままでいよう」
「……ん……」
躰をずらし熱い楔を抜こうとしていた僕の腰をぎゅ…と彼が押し止める。
「俺は………お前しか抱きたくない」
「僕だと思ってすればいいさ」
「っ―――」
落ちついた言動の端々にタップリの未練を含む彼を突き放すようなその言葉にも、嘘はない。
悩み抜いた中での本音を、僕は零してる。
「僕ね………君の赤ちゃんが欲しいんだ」
「!!」
「ふふ……もちろん僕には無理だけど。だから………」
「…………」
君が酷く苦痛な目をして奥歯を噛み締めてるのを知りつつ僕は続けた。
「誰かが君の子を産んで………僕はその存在を、遠くで知ってるだけでも良いんだ」
重い空気の中、黙って………彼はまた律動を始める。
もうすでに君で溢れている結合部は、それでもまだ貪欲に静けさの中で淫らな音を奏で始める。
僕は小さな微笑を作って黒曜の眸を見上げながら、足を絡めて結合したままの二人の身体の距離を縮めた。
あえて、君には“そこまで"しか伝えなかったのは、ほんの少しの僕の強がりだったのかも知れない。
『君の形見が欲しい』
そう強く想い始めたのは
僕が、君の置かれてる状況を知ったあの日からだ。
スポーツ軍人としての君が、危険に囲まれていることを。
あの日から僕は、君が部屋にいない間中……つまり試合の時も、訓練とか出張の公務はもちろん
単なる外出の時でさえ……
sp05がモニターしている情報を固唾をのんで見守り続けてる。
君という存在を失うのが怖くて、生きた心地がしなくて…………。
それで、ずっと考えてたんだ。
君の使命を変えることが出来ないのなら、僕も生まれ持った性も変えられないから、
せめて不安を落ちつかせる“希望"が欲しい。
それは、手に届くものじゃなくてもいい。
ただ確かな“命"がいい。
だから、君の“命"をこの世に繋ぐために僕は…………君の結婚を、応援しようと思う。
「すまないな………」
上り詰めて恍惚に包まれてる脳裏に豪炎寺くんの声が重く響く。
「…………?」
「こんなことしか………してやれなくて」
「ううん……これが一番……幸せ」
安全な住まいと、美味しい食事と。
“おつとめ" を口実に愛する人に毎晩抱かれて。
これ以上僕に、求めるものなど何もない。
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