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秋の挙式に向け、この春に婚約。
それを目前にして俺の心中は大荒れもいいところだった。
「修也君、結納も近いんだ。奴隷に入れ込むのもそろそろいい加減にしろ」
「何故です?性癖にまで口を出される筋合いは無いでしょう」
吉良財閥のウルビダ嬢との婚姻は、そもそも政治的なものだ。
互いの間には情愛はなく、親同士の利害の一致や目的の共有だけしかない。
数ヶ月前から何度か対面し、彼女が容姿端麗な才女で軍事の才能も際立っているのは伝わってきた。
だが吹雪以外の相手に、何の感情が湧くわけでもない。
「相手も年頃の令嬢だ。しかも吉良星ニ郎会長の次女……良き夫婦の体裁を整えるのが一応の礼儀だろう」
「…礼儀……?」
乾いた笑いがこみ上げた。
「あなたが財界に取り入りたいのは分かります。だが縁談を使うなんてあまりに時代錯誤じゃないですか」
“体裁"ならこれでも整えているつもりだ。
表面上無難に振る舞う両家は親しげに見えて、どこかで警戒し探りあっている。
俺とウルビダも互いに養子という点では同志だが、二人の結婚など虎と豹を同じ檻に閉じ込めるようなもので、人目を引き様々な効果は生み出せるだろうが、温かい幸せとは程遠く思える。
「結局あなたが欲しいのは、養子である俺と、財界の令嬢の“子"ですよね?」
「……そうだ、と言ったら?」
「フッ…。じゃあ遺伝子だけ差し上げましょうか。何なら想い人の体内に放つ極上のヤツをね」
「何っ……!」
「だから、俺には吹雪をずっと与えて下さい」
「発言には気をつけろ。今のは政治家なら大失言だぞ」
干宮路首相は歪んだ苦笑を浮かべプレジデントデスクから立ち上がる。
「修也くん。結婚など簡単なんだ。戸籍で結ばれ運命を共に背負えばそこに絆が、子を為せば愛着が生まれる。愛なんて後からでもついてくるのだよ」
「……それはあなたの考えだ。あいにく俺は欲しいものを我慢できない性分なので」
「っ―――」
「首相」
荒んだ俺の言葉に苛立つ干宮路首相を、側近の黒木が止めに入る。「坊っちゃんも若くしての政略婚。ちゃんと弁えてらっしゃるが、今は重圧に気が立っているのでしょう」などと……。
自分でも気が狂ったことを言ってるのは分かってる。
ナショナル・スペシャリストとしてここへ連れて来られた時点で俺に自由は無いのに。
そして、そもそも父が同じく研究分野のナショナル・スペシャリストであることも、俺のしがらみになっている。
この国に俺が、逆らって逃げる場所がないのだ。
だから
前に、進むしか―――
それを承知の側近は余裕綽々で静観し、俺は周囲に当たり散らすようなマネをして晴れない鬱憤をどうにかしようと空しく足掻いているだけだ。
訓練終了のサイレンが鳴った。
「…吹雪」
自室のドアを開け、愛しい名を呼ぶ。
「……いるのか?」
ソファーの背凭れからヒョイっと顔を出した可愛らしい仕草に、思わず頬が弛む。
「今日は、早かったね」
「早くて、悪いか?」
「えっ?うぅん……そうじゃなくて……わっ!」
ジャケットを脱いだ俺にいきなりソファに押し倒されて、吹雪が短い悲鳴をあげる。
「俺の前では、服は要らないだろう?」
「だってまだタごはん……っぁ」
「まずはお前を味わいたい」
「やっ……だめ……まだ準備が……あっ……」
露わにした白い胸の尖端を舌で苛めると、びくっと躰を震わせて美しくそらすのにまたそそられて…………
素直に勃ちあがる白い性器を手に包むと、触れられたことがない吹雪は戸惑いに身を竦める。
「ふぁ…………それ…は、禁止……でしょ…」
ゆっくり擦るように動かすと、甘い声を漏らして身悶える姿にそそられて愛撫が止まらない。
「ぁあっ……はぁっ…やめ……て……」
「やめない」
「やっ……」
「俺を満足させるのがお前の務めなんだろう?」
強めの口調を命令だと感じとり、腹を括った吹雪は眉をひそめて身体の力を抜く。
また戒めを破ってしまった。
俺は奴隷の性器に口唇で愛撫の限りを尽くして精を搾り取って飲み、全身に口づけてその滑らかな肌を感じることで荒れた気持ちを落ち着かせるのだった。
吹雪が欲しい。
欲しくて堪らないこの気持ちを………
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