マッチ売りの少年 | ナノ
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 7

「しみないか?」

トレーで運ばれた食事を、ベッドで半身を起こす吹雪の口に運んでやる。

「ん………しみてきた」
「っ……大丈夫か?」

「うふふ……君の優しさが心に、ね」
「………バカ」

口内の爛れはだいぶ治まったようだ。

ひと匙ずつ息を吹きかけ適温を確認しながら運んでやるクラムチャウダーを、吹雪は美味しそうに食べている。

瞳には輝きが戻り、頬にも赤みがさして柔らかさも戻りつつあるのを……安堵とともに、しばし見守る。

「なぁ、訊いてもいいか」

「…………?」

「何故………こんなことになったんだ?」

「………ああ、それはね…」

吹雪は柔らかい表情を変えずに
口を開いた。




「…………営業妨害?」

そう。と吹雪は淡々と説明を始める。

「たまにあるのさ。今回は特にひどくて………」

マッチに紛れて薬物を売っていると通報されて取り調べを受け………シロでもせっかく作ったマッチは調査で全て没収されて。

身ひとつで釈放された吹雪に、今度は直接タチの悪そうな連中がつきまとう。
『マッチなんかより体を売れ』
元手も要らない。紹介料を差し引いたって一日一人でも客を取れば、今よりも稼げる………と。
見るからに悪い連中にしつこく絡まれているヤツのマッチなんて人々が買うはずもなく、客が遠退いていく。

その時の吹雪の孤独と絶望感を思うと、胸が痛んだ。



「でもね、君のおかげでヤケにならずに済んだんだよ」

「俺の……?」

「“あれ" に守られてる気がしてたんだ。“お前が大切なんだ "って、君の声が聞こえる気がした……」

熱を帯びて心に響く声や、心配げに眉をひそめて見つめる強い眼差しや、クリスマスのキス。

君を想うと、君との想い出に包まれた僕の心身が、とても大事なものに思えて……

飢えたって、凍えたって、お金と引き換えに明け渡すなんてとんでもない、って思ったんだ。

吹雪はそう言いながら、いつの間にか傍らに持ってきて大事にハンガーに掛けてある“ジャケット"を見つめる……。
その横顔は儚げだが、凛とした強さが見てとれた。


華奢な身体と繊細な心のどこにこんな底無しの強さを潜ませているんだろう。


「あ〜あ、そんなに悲痛な顔しないでよ。大丈夫、僕こうみえて強いんだよ」

寒さにも逆境にも強い道産子だし、腕力だって脚力だって……
「" 熊殺し"って呼ばれてたんだから」

「クスッ……いつの話だ」
「えぇっと、小学生の頃さ……」

全く。頼もしいというのか、向こう見ずと言った方が正しいのか。

俺は、目を丸くしてカ説する吹雪の自慢話に苦笑まじりに耳を傾けた。



そして、一通り話し終えてふうっと肩で息をついたところで切りだす。

「お前に危害を加えてきた連中のこと、もっと詳しく教えてくれるか」

「……え?」

どことなく不安げな表情になり、こっちを食い入るように見つめる吹雪。「何する気なのさ?」

「お前は心配要らない。軍事は警察にも関係しているから。暴力に無関心ではいられないだけだ」

「暴力?…でも僕、殴られたりした訳じゃ…亅
「吹雪」

“敵にも柔和な" 吹雪の態度を諭すように俺は言う。

「妨害行為は暴力だ。現にそれでお前は飢え死にするところだったんだぞ?!」

「…………」

俺が軍人の顔になったのを敏感に読み取り、吹雪は少し不安げにぽつりぽつりと、訊かれたことだけに答えを寄越した。




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