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embrace3

もういろいろと察しているくせに自分からは口にしない。
それはきっと、豪炎寺が自分に求めるけじめなんだろう……と士郎は思う。

今まで「好きだ」とか「一緒にいたい」とか口にしてくれた彼に対して、士郎はまだ返事らしい言葉をかえしていない。

だから、豪炎寺から贈られたものを肌身に纏うことがきっと“答え”の代わりになる。
札幌での別れ際では、士郎も約束をした。
「次会う時までに何を貰うか決めておく」と。
だから彼は待っているのだろう。
士郎の口からたしかな答えが返るのを―――。

「あ、気づいた?………こないだ………ピアス開けちゃったんだ。衝動的にね」

さりげない口調も“衝動的に”というのも、ぜんぶ照れ隠しだ。
本当は考えに考えた。ピアスにすることに決めたのも、開ける位置もぜんぶ。
豪炎寺と温めあうこの恋を、いつでもそっと思い出せるように―――。

「思い切ったんだな。親から貰った大切な身体じゃなかったのか?」

「大切だからこそ…だよ……」
つい口にした本音。だが言葉を続けようとして、猛烈に照れ臭くなってやめておく。

「その思い、ありがたく受け止めさせて貰おう」

「もう大げさだなぁ、別にいつでも塞がるし。刺青入れたりしたわけじゃないんだからさ……」
膨れて目をそらす士郎のしぐさに、豪炎寺が苦い顔で笑う。
抜けるような白い肌にタトゥーはさぞ鮮やかに映えるだろうが、何だか勿体ない気もする。

「まだ……ちゃんとしたアクセサリーはつけたことないんだけど……」
「俺に一番に贈らせてくれるんだろ」
「…………」
士郎は目をそらしたまま頬を赤らめて頷き、その精一杯の言葉を受け取った豪炎寺が、もう一度右の耳朶の小さな窪みを愛しげに舌でなぞった。


「そういえば……来年の話、決まりそうなんだ」

甘くざわめく肌を火照らせ、士郎は弾む息で話題の矛先を変える。

白恋中の予算と町の補助金で、Zメディカルサポートにうさぎサプリの運用を依頼できそうなこと―――その報告を土産話に実は豪炎寺の元へとやってきたのだ。

そうなればまたディレクターとして豪炎寺を白恋に召集できる。

ここへくる前に白恋町へは申請を済ませてきた。
賭けのような気持ちだったが、その時の町の反応もしかり、即座に当確は見えたも同然だ。

いつか豪炎寺と話していたとおり、白恋町の若い人口が他とくらべて飛び抜けて充実しているのは、まさに少年サッカーが盛んなおかげ。
その発端は、吹雪兄弟が白恋町に残した輝かしい功績なのだから……町が却下するはずがなかった。

「町をあげてのプロジェクトということなら、こちらもやりがいがあるな。最大の成果を出せるように協力しよう」
引き寄せた士郎の肩に口づけながら、豪炎寺がニヤリと笑う。
「……目指すはFF優勝だな」

「……そうだね」
愛撫の心地よさに思考をほどかれてく士郎が、うっとりした表情を浮かべながら訊ねた。
「ひとまずは一年……もしその効果を証明できたら、Zから白兔屋へ、プログラムを卸売りすることはできるかな?」

「卸す?」

たとえば白恋中がFF初優勝を果たせば―――独自の食育プログラムも当然注目を浴びる。
それを白兔屋に買い取ってもらい、うさぎサプリの食育サービスとして世間に売り出せば、白恋中で翌年以降もずっとZプログラムを使うことができるようになるだろう。

そしてZはプログラム制作を通じて白兔屋グループとのビジネスを継続し、北海道を拠点に食育分野のフィールドを拡げることだってできる―――

「そうだな……検討の余地は充分にある。魅力的なビジネスに乗らない手はないからな」

「……ん……」

引いては寄せる優しい愛撫に身を任せている士郎の口元に無意識の笑みが浮かぶのを、愛しげに見つめる豪炎寺。

先を急ぐことはないし、士郎もせかすことはない。
焦らされるようなわずかな疼きも、恍惚へと変化を遂げるのだから………


なんてしあわせなんだろう……




「は……っ!」

夢見心地で目覚めた士郎の視界は、見慣れない部屋の明るい天井を映している。

仄かなラベンダーの香りと、肌のぬくもりで、ここが絶対的に安心できる場所だということだけは、五感が感じとっている。

しまった。夜が明けちゃった―――
士郎は顔を上げ辺りを見渡して……それからがっくりとうなだれるように、豪炎寺の胸に崩れる。

「どうした?」

「最後まで……してない……よね?」
「ああ、俺は構わないが」
穢れない唇から零れる言葉にドキリとしつつ、豪炎寺は困惑気味に首を傾げる。

たしかに昨夜ベッドでは絶頂すれすれの愛撫でじらしたまま、士郎を寝かせた。
焦れながら恍惚とする士郎の表情や反応が可愛くて仕方なかったし、デスクでのセックスが激しくなってしまった反省もあって、ベッドでは労ったつもりだ。


「今日はピアスを一緒に選びにいこうか」
「ううん―――待って」
身体を離そうとする豪炎寺に抗うように士郎がしがみつく。
「それは……次会う時まででいいから……」

また引き延ばすのか、と云いたげに豪炎寺は眉間に皺を寄せるが、続いて零れる士郎の言葉に胸を射抜かれる。

「どうせなら……一緒に選ぶんじゃなくて、僕に相応しいと思うものを君から贈られて身につけたいんだ」

「…………そうか」

可愛すぎて反則だ。
口にした時の含羞んだ表情も、そのけなげな発想も………

「それより今はさ……」
士郎は豪炎寺をもう一度ベッドに引き寄せるように、しなやかな両腕を首の後ろにふわりと回す。
ラベンダーにまぎれて……士郎のいい香りが鼻腔を甘く擽る。
そして、ないしょ話くらいのトーンの声が耳元で囁いた。
「空港に向かう時間まで……ここで……君といちゃいちゃしてたいな」

「っ……」

士郎が急に素直になるなんて、想定外過ぎて―――


もて余しながら隠しあっていたふたつの熱は、とろける白い身体の中ですぐにひとつに結ばれる。

「士郎……」
「っはぁ……ご……え…じく……」

情熱を奏でるリズムと、それに合わせて漏れる甘い声は、空港に発つリミットがくるまで止む気配はない。

何度上り詰め
何度墜ちても
穢れない色に埋没しながら
恋人たちはお互いを求めあう。

すべての点を乱反射する
雪のような
その色に―――。




“White” is the colour of sweet true love
恋は何色? *完

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