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遅咲きのラベンダーが満開になったころ、うさぎサプリ×Zメディカルサポートの実証実験は一区切りつける形で終了を迎えた。
本来なら夏までの検証の結果を元に、秋からは次年度の本格導入に向けての具体的な検討が始まる計画だったのだが……

職員室の机で、士郎はアツヤが当初Zから渡されていた当初のスケジュール資料を見ながらため息をつく。

“典型的ファミリー企業のしろうさぎ本舗が他企業と組むなんて、どういう風の吹き回しだろうな?”

その通りだ――アツヤに疑問を投げかけられたあの時、どうして気づかなかったんだろう。

“Zのディレクターと色々話してるけど、けっこーヤリ手そうな奴だから……心配すんなって”

うさぎサプリ×Zメディカルサポートの協業なんて、建前だったのだ。
ディレクターとしてやってきた男が白兔屋社長の見込んだ後継ぎ候補であることも“実証実験”が彼の手腕を試す目的も兼ねていたことも……今思えば分かりやすいもくろみだ。

士郎は水色のマグカップ片手に席を立った。
そしてコーヒーを淹れて戻ってくる時、インターホンのモニターがふと目に止まり、豪炎寺を初めて迎え入れた時のことを思い出す。
予想外の出来事に慌てて、何も考えずに迎え入れてしまったけれど……
あの時すでにカメラ越しの彼に心奪われていたのかもしれないと、士郎は思い返して苦笑する。

でも……
白兔屋社長の思惑を見抜いていたとしたら、彼に恋をしなかった?
いや、やっぱり無条件に落ちていたんだろう。
運命なんて皮肉なものだ。
恋を避けて通ってきたのに突然深みに嵌まってしまうなんて、誰が想像できただろう。



ウィークリーマンションを引き払う最後の夜。

数個の段ボール箱とキャリーバックに整理された持ち物がワンルームのフロアに積まれている。
その傍らには、最後に残された生活空間のベッドだけが、服を乱した二人のなまめかしい熱を受け止めている。
白い肌を撫でる湿った口唇。
小刻みな吐息が絡み合い、士郎は悶えながら懇願する。

「あ……だめ……ほ…んとに……やめ……っ…」

終止符じゃなく、休止符だとわかっていても身体は臆病だ。
これからしばらく会えないのに、快楽の淵に沈められるのは怖い。

「何か……わだかまりでもあるのか?」
「ちが……っ」
肌にまといつく快感に震えながら、士郎は首を横に振る。
「今溶かされたら僕……元に戻れない……から」

「戻れなくてもいいだろう?」
身勝手を言いながらも結局彼は優しくて。愛撫の動きを徐々に止めていく。

それに気づいた士郎は、身を捩ったまま眉をひそめ、瞑っていた目をうっすらとあけた。
そして、目を細めた豪炎寺から注がれる熱い視線とぶつかって、照れくさそうに顔をそらす。

その仕草が可愛くて、豪炎寺は笑いを噛み殺しながら身体をずらして向き合うように隣に横たわった。

「あの……」

上り詰めていく途中で止められ行き場を無くした欲情を抱え、士郎は不服げな表情をちらつかせている。

「小休止だ……俺もこれ以上熱くなると抑えが効かなくなるからな」
「っ…………」
少し上擦る真摯な声が士郎の胸を熱くする。

もういいから、して―――と静止を撤回しようとした矢先、いつも通りの彼の口調が遮った。

「少し仕事の話をしよう」

「………?」

とてもじゃないけど今はそういう気分ではない。
戸惑いながら見上げる士郎に、豪炎寺は唇を近づけて耳元で話し始める。

「いいか、この件はこちらも引き下がるつもりはない。俺はここにまた改めて仕事を獲りにくる」

“ここ”というのが白恋中を指しているのは士郎に伝わった。

「僕だって……そうしてほしいよ。うさぎサプリを使うならZのプログラムと組み合わせるのが効果的だからさ」

「そういう声は有り難いな」
士郎の耳朶辺りで豪炎寺の口角がニヤリと上がった。
「ここで作ったプログラムは共同実験で試作したものだ。協定期間中は好きに利用できるがあくまで試作品にすぎない。白恋中にはいずれどこかのシステムが本格的に導入されるはず―――」

ああ、そういうことか。
うさぎサプリとZメディカルサポートの協定期間は一年。
両社の連携は途絶えても、白兎屋期待の新規ビジネスであるうさぎサプリは、何らかの形で拡大してくに決まってる。
その際しろうさぎ本舗はサプリの運用をどこかに委託するだろうから、その“どこか”にZメディカルサポートが嵌まるように持っていけばいいんだ―――。

「わかった。僕、白恋中のサプリ運用をZに任せてもらうように、校長先生にも掛け合うよ。それが叶えばもしかして……」
「そうだな。俺も白恋中への提案を進める。導入が決まればもちろん……準備段階から現場でしっかりサポートさせて貰う」

“俺の帰る所はこの先ずっとここのつもりだ”
そう言ってくれた豪炎寺の言葉が一気に現実に近づいた気になって………
士郎は目を輝かせて、吸い込まれそうな豪炎寺の双眸を覗き込んだ。

「値は張るが、確実な効果を出すまでフォローするのがわが社の教育プログラムだからな」

士郎は実感を込めて頷く。
豪炎寺になら白恋を任せられると思ってる。
自分はこの3ヶ月間で、彼の試作したサッカー教育プログラムにサプリ食育を組み込むことで効果が上がり始めるのを実際目の当たりにしてきたのだから―――。

「……ひぁっ……何っ?」
いつの間にか滑りこんでいた手に下着を取り払われて、士郎がびくりと伸びあがる。

「お前のここ……中々収まらないな」

「やっ……あっ……」
濡れて芯を持ったままの士郎の性器が、豪炎寺の手に扱かれると、溢れる透明な蜜が後ろまで滴る。

「も……君だっ…て……」
身体を弄ばれながら精一杯伸ばした士郎の指先が、豪炎寺の熱い怒張に触れた。
「前より……すごくなってるよ」

本能的に浮いた腰を掴んで引き寄せて、互いの先走りに潤滑された入ロが豪炎寺の先端を吸うように呑み込んだ。

「……いいよ。全部……僕のなかに出して……」

浮かされた声で士郎がせかした。

「君をそんなふうにしたまま……東京に帰せないもの」

「甘えて……すまないな」

優しいキスに包まれて、同時に甘い鈍痛が士郎の体内を奥まで貫く。

圧し殺した快感の呻きのような豪炎寺の吐息が士郎の鼓膜を震わせ、隆起する熱で内側を抉られるたび、歓楽が全身を駆け巡った。

 
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