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breeze2

豪炎寺を受け入れるときの感度が上がりすぎて怖いくらいだ。

綿菓子の丘へ行ったその晩も、狭いベッドを軋ませながら、身体を繋いで揺れていた。

「はっ……あ……っ……あっ……」

焦らされた身体の奥にようやく豪炎寺の熱が注がれると、身動きできなくなるくらい士郎の収縮がきつくなる。

「気持ち…いいのか?」
「……べつ……に……」
言葉ではそっけなくても、いつも最後に力任せにしがみついてくるのが可愛い。
まだきつい結合の奥で、絡みあったままの脈動を感じながら、豪炎寺はさらに意地悪な問いを重ねる。
「中でもイってたな」
「言わないで。恥ずかしい」

士郎自身指摘されなくたって、体の変化は自覚している。
精を受けたって何もならないのに、渇いた絶頂が豪炎寺の放つ飛沫を貪欲に絞り取ろうとする……。


GWの最終日。
久しぶりの休日、士郎は豪炎寺が滞在を決めたウィークリーマンションの部屋を整える手伝いをした。

都会のように家具家電完備とかこなれた物件じゃなく、備品はホテルにあるものプラス洗濯機くらい。
必要最低限の生活用品を買い足して揃えたシンプルな空間だったが、ホテルよりずっとくつろげる場所になった。

豪炎寺の都心での暮らしを士郎は知らない。
彼の華やかな雰囲気からは、きっと士郎の想像の及ばない別世界があるのかもしれない。
その彼がガラリと生活を変えて、この町に移り住むなんて……今は実感がわかないけれど、自分の傍に豪炎寺がいることがいつか当たり前になるのなら嬉しい。

もしかしたら今日がその第一歩―――?

士郎の変化は身体だけじゃなかった。
10日少々離れてただけなのに、昨夜から何度も抱き合い肌を確かめたのは、会えなかったさみしさを埋めるため……まるで夢中で愛しあう恋人たちみたいだ。

「帰るのか」

「うん。アツヤも戻ってるし……明日からまた朝練、早いしね」

玄関で振り向かずに答える士郎を、豪炎寺は背中から抱きしめた。
名残惜しいのは豪炎寺も同じみたいだ。明日からまた学校で会えるのに……お互い可笑しい。


「……ニキ、おい!アニキ……って、そこの色ボケ野郎!」

「っ……何だよ色ボケって!」

けだるそうにソファーに沈んでぼんやりしていた士郎を、隣に来たアツヤがしげしげとのぞきこむ。

「まさかアイツと会ってたのか?」
「…………」

「なあ」
弟の剣幕に圧倒されている士郎のシャツに、アツヤが手をかける。
「ひゃっ!何だよっ」

「うわ……えっろ。明日そんな身体で教壇立つとか不謹慎極まりないな」
捲られたシャツの下の白い肌に微かに色づく薄桃色の跡を見てアツヤが引いている。

「大丈夫、すぐ消えるよ。彼はちゃんと気をつかってるから……」
「おいっ、逃げるな!」

士郎は顔を真っ赤にしながらアツヤの静止を振り切り、シャツの裾を直して立ち上がる。
頬が熱いのはアツヤに見られたからだけじゃなく、つけられたときの行為を次々と思い出してしまうからだ。


「あ……母さんが来たんだ」
冷たいドリンクを求めて冷蔵庫を開けた士郎は、置き土産の食材でいっぱいになっているのを見て呟く。

「ああ。アニキの顔もたまには見たがってたぜ」

「……そっか」
士郎はぽつりと自問自答する。
週に何回か物資の補給に来てくれている母とは、正月以来数度しか顔を合わせてない。
「恋人なんて……紹介したら、やっぱ母さんも驚くよね?」

「は?!」
アツヤは一瞬愕然とするが、諦めたように肩で息をつく。
「……ま、相手によるだろ。異性だからいいってモンじゃねーし」

ぶっきらぼうだが優しく背中を押すアツヤの言葉に、士郎は頷いて……
棚に並んだ豊富な食材を見渡しながら、明日のお弁当には何を入れてあげようかと、また豪炎寺に思いを馳せてしまう。

「あ〜あ、俺も刺激ほしー。そろそろ特定つくろっかなあ」

「作ろうとして作れるもんじゃないでしょ」
ヤケ気味に零すアツヤに釘をさした士郎の顔がにわかに輝く。
「わ、イチゴ♪」
冷蔵庫に並ぶ差し入れのなかに好物を見つけたのだ。

「じゃあどーすりゃいいんだよ? 聞いてんのかオイ」

話の途中ですっかりイチゴに心を奪われてる士郎にイラつきながら、アツヤが話を戻す。
キッチンから出てきた士郎は、盛りつけたイチゴの皿を差し出してニッコリ笑った。

「考えても仕方ないよ……落ちるときは落ちるのさ。無条件にね」

一つ摘まんだイチゴを口に含みながら目を丸くして答える士郎のあどけない表情は、恋愛を食わず嫌いしていた頃と少しも変わらない。

『綺麗なままずっと大切にしたいと思ってる』

いつかの豪炎寺の言葉と今の士郎がぴったり重なって―――アツヤは渋い顔で目をそらした。



「あ……れ? おはよ」

翌日、朝練が始まって間もないグラウンドに現れた豪炎寺の姿に士郎は目を見張った。
ジャージなど軽装の職員が多い校内で、豪炎寺のスーツ姿はいつも決まっていて格好良すぎる。

「おはよう」

豪炎寺はベンチの少し離れた隣に脚を組んで腰かけて……グラウンドの選手たちの動きを静かに見つめている。

士郎は急激に高鳴る胸をそっと宥めながら、それにしても彼はよくグラウンドに立ち寄るなあ……と感心する。
仕事の一環であることは確かだろうけれど、サッカーに注ぐ視線は顧問の自分に負けないくらいの真摯さがあった。

「君も……サッカー好きなんだね」

豪炎寺が頷くのを見届け、グラウンドに視線を戻した士郎は、それ以上の言葉は要らないくらいの濃厚な空気を黙ったままで共有する。

「この一帯は過疎地域にあるのに、白恋サッカー部はここ十年以上メンバーを欠いたことはないそうだな」

「え? ああ……そう言えば……そうだね」

間の抜けた返答は、どうやら今までそんなこと意識したことない様子を物語っている。

「吹雪兄弟の力だろう。ここでボールを蹴ってた頃からずっと……お前たちが人を呼び町を支えてきたんだ」

結果的にはその通りだ。でも自身の感覚は違う。
士郎はそれを正直に口にした。

「すごいのは僕らじゃないさ……サッカーだよ」

「……そうかも知れないが」

豪炎寺はグラウンドを見つめたままで頷いた。

 
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