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bloom5

二人きりの部屋に戻ったら、どうなってしまうのかは予想できた。
でもその先の未来となると、士郎にはまったく想像もつかない。

黄昏のアーチ通りをふたりで歩いて、途中何度かキスをして……通り抜ける頃には自然と手を繋いでいた。

こんなこと……僕は男なのに……と思いながらも心がときめいてしまう。

停めてあったシトロエンに乗り込んで、何となく車を発進させてから、ふと士郎が訊いた。

「今日は君……泊まるところあるのかい?」

「無い、と言ったら?」

「……ウチに泊めてあげてもいいよ。こないだみたいにベッドは別でね」

牽制したつもりでチラリと視線をやるが、黒い眸はびくともせずにこっちを見ていた。

「アツヤはいないのか?」

「……うん。実家に帰ってるけど」

運転しながら、士郎は動揺と戦わなくてはならない。しかもそれを豪炎寺に悟られないようにしながら。

「そうだ、夕食……」
家に帰るならこのまままっすぐだが、駅の方に食べにいくのなら次の角を右だ。
「何か食べに行く?」

「いや。差し支えなければお前の家で食べたい」

「えっ……普段どおりのものしかないけど……いいの?」

まさかの即答にどぎまぎしながら士郎が聞き返す。

「勿論いいさ。とにかく東京にいる間、お前の手料理が恋しくてな」

「っ………」
交差点を過ぎるとき少し迷ったが、ハンドルを切らずにそのまま駆け抜けた。

正直、料理どころではなかった。

出会った日に彼を泊めた状況とは訳が違うのに。それを承知で彼を家に連れていこうとしている自分が愚かに思える。

会ってしまえばこうやって流される。
だからあれこれ躊躇していたのに―――。


アパートの階段を上る士郎の足取りが迷っているのは、豪炎寺も気づいていた。

「どうぞ……」

士郎は豪炎寺を招き入れ、ジャケットを受け取ってハンガーに掛ける。

「お風呂入ってきてよ。僕その間に夕食を……」
キッチンに入って行こうとする士郎を、豪炎寺の腕が背中から閉じ込めた。

「ちょっ……何……?」
「少しだけ……補給させてくれないか」

「な……にをだよっ……」
「士郎を」

「……っ……」

逆らえない。

背後から、こめかみに、耳元に、頬に、首筋にキスが降る。
そして、いつのまにかシャツの下を這う手に素肌の胸を撫でまわされている。

「あ…つい……よ」

「じゃあ、脱ぐか」
「やめ……て」

士郎の衣服が次々と足元に落とされていく。
上気する肌に魅せられ、甘い吐息で止められたって、聞き入れられるはずがない。

「だめ……スーツ……よごしちゃう……」

向きなおらせてキスを奪えば、士郎の唇はとろけるように繊細で柔らかくて……離した唇の隙間でスーツの心配を零してる。
「あ……シワに……なるって…」
スラックスを脱ぐ手を遮ろうとする士郎が可愛くて。
「わかった。ちゃんと掛けておくから、お前はベッドで待ってろ」
豪炎寺はプラチナの髪を唇で掻き上げて耳元で囁いた。

豪炎寺の腕から解き放たれた士郎は、ふらふらと心もとなさげに自分の部屋に歩いていく。

一糸纏わぬ白い身体を、ベッドのシーツに横たえると、その冷たい感触に、自分の肌の火照りをあらためて自覚する。

あの夜と……同じ疼きだ。

豪炎寺となら……いい。
未来なんていらないから、肌を重ねあい、中まですべてを奪われてしまいたい衝動が、おさまらない―――


明かりのついてない部屋に入ってくる豪炎寺の気配が、そのまま士郎の身体に覆い被さる。
士郎はせつない息を吐き、豪炎寺の首に腕を回すと互いの熱い肌が密接するここちよさに爪先まで震わせた。
豪炎寺の唇や指先が、士郎の至るところに触れるのが、すごくきもちいい。

甘くて、せつなくて、息が詰まる―――

言葉を交わす余裕もなく、荒い吐息とともに身体を溶かされて。開いた脚のあいだで蕩かされた入口も、すでに熱くてたまらない。

「っ……あぁ……っ」

その内壁を圧し広げて、豪炎寺が入ってくる。
痛いのにきもちいい。
士郎の身体はそれをきつく絡めとりながら、微かに腰を揺らした。
ナカがもう……あの日覚えた快感を欲しがって、堪らないのだ。

豪炎寺の律動がそれに応えるように、士郎の悦いところを擦り上げ、快楽の淵へと追い詰める。

喘ぎ声さえ塞いでしまうほどたくさん口づけられながら、結合した身体の奥が愛慾の熱で掻き混ざる。

貪られる快感なんて……豪炎寺と関係をもつまでは、想像すらしていなかった感覚だ。

もう、セーブなんてできない。
身体がお互いを欲しがって疼き、切ない熱をもどかしく擦りあわせながら上り詰めていく。

「くっ……士郎……」

一足先に果てた士郎の締めつけのなかで、豪炎寺の熱も爆ぜた。

内側から伝えあう脈動ごと抱きあいながら、嵐の余韻のような鼓動や吐息をきいている―――

無理な結合をすぐに解いてやりたいのに、まだ離したくない。

首に巻きつく士郎のしなやかな腕も、離れまいと力が籠るのが愛しくて―――

「お前には……癒されるな」

「…………」
そんなことを言われたのは初めてで……快楽に埋もれながら士郎は少し首をかしげる。

「ずっと一緒にいてほしいと思うのは高望みだろうか?」

豪炎寺の僅かな身じろぎに、士郎のなかがひくりと反応する。身体のなかでは熱と脈動がまだ甘く絡みあっているのだ。

「今は……いいよ」

「……今だけか?」

士郎は目を閉じたままそっぽを向いた。
「だって君には……帰るところがあるでしょ?」
精一杯押し出した強がり。

フッ…と鼻で笑う声に、士郎は振り返って豪炎寺を睨むが、暗くて表情はわからない。

「俺の帰る所はこの先ずっとここのつもりだが」
「……え?」

結合が解かれるが、抱きしめる強さは変わらない。

「会社だって住む場所まで口出しはしない。それにここは大事なビジネスのフィールドだしな」

「………本気なの?」

半信半疑の士郎は戸惑い気味に微笑む。

「ああ。東京にいる間もずっと……ここへ帰りたいと思ってた」

まっすぐに届く声を、士郎は頬を擦り寄せた彼の胸で聴く。

―――心のおくに、じわじわと嬉しさが広がっていくのがわかった。

 
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